上部食道括約筋手術(開創法)

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上部食道括約筋手術(開創法)

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2002-05
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WeBSurg.com, May 2002;2(05).
URL: http://www.websurg.com/doi-ot02jp249.htm

上部食道括約筋手術(開創法)

1. 適応と禁忌
嚥下困難に対する食道機能検査(透視、内圧検査、内視
鏡検査)で輪状咽頭筋のレベルで狭窄が証明されれば輪
状筋切開術の適応となる(Duranceau, 1997)。
嚥下困難の原因としては以下が考えられる:
- 神経原性:ストローク、筋萎縮性側索硬化症
- 筋原性:眼・咽頭ジストロフィー
- 構造上:特発性上部食道括約筋機能不全(咽頭食道部
憩室を伴うものまたは伴わないもの)

4項目の予後因子が良好で機能を損なわない手術成績と
正の相関をしめしている(Duranceau, 1995)。
- 嚥下動作時に随意収縮が損なわれないこと
- 嚥下動作時に舌の動きが正常であること
- 発声が正常であること
- 構音障害がないこと

患者の全身状態が不良な場合は禁忌である。

2. イントロダクション
1926年、Zenker憩室として知られている咽頭食道部憩室における輪状咽頭筋のスパスムスが疾患として認知された。上部嚥下困難に対する治療として輪状咽頭筋切開術が初めて報告されたのは1951年(Kaplan, 1951)である。中咽頭部の嚥下困難は口腔内から頚部食道への固形物や流動物の通過障害が原因となる症候である。
治療としてはZenker憩室の原因が神経原性であろうが特発性であろうが、通常咽頭食道接合部輪背側の筋切開術(輪状咽頭筋を含む)が行われる。咽頭食道部憩室の存在の有無にかかわらず手術手技は基本的には同じである。手術は嚥下に関する機能的狭窄を克服する手助けとなる(Duranceau, 1995)。

3. 解剖
• 形態解剖
皮膚切開のランドマークは以下の通りである。
1. 外耳の耳たぶ
2. 胸骨切痕
3. 胸鎖乳突筋前縁
• 局所解剖
1. 広頚筋
2. 皮膚知覚神経
3. 肩甲舌骨筋
4. 前甲状腺筋群
5. 中甲状腺静脈
6. 下甲状腺動脈
7. 甲状腺左葉
  
- 深頚筋膜
- 輪状咽頭筋の位置の頚部食道
- 下部・後部中咽頭
• 病態生理学
中咽頭から頚部食道への通過障害には3種類の病態がある。
- 鼻咽頭逆流症
- 咽頭口腔部逆流症
- 喉頭気管吸引(Duranceau, 1995)
これら3種の徴候は輪状咽頭筋のレベルにおける機能的狭窄が原因である。筋の欠損や筋の協調性の欠如、もしくは不完全な協調性弛緩により説明されるかもしれない。この最後の機序は1992年にZenker憩室の原因としてCookが報告したものである(Cook et al., 1992)。
4. 術前処置
- X線検査:正面像、背面像、側面像の嚥下時透視検査
(Duranceau, 1995)は診断に不可欠である
1. 正面像
2. 側面像

- シンチ像: 必須ではないが特にZenker憩室以外の症
例で長期的術後経過において重要な量的変化の指標
となる(Taillefer and Duranceau, 1988)
- 内視鏡検査:とくに癌や異物などの機械的病因を除
外するためにおこなう
- 嚥下力を評価する食道内圧検査:Zenker憩室以外の
確定診断には不可欠である(Castell, 1995; Mason,
1998)

肺機能検査も行うべきである。患者は時に術前に治療すべき誤嚥性肺炎を併発していることがある。

術者は患者が深部静脈血栓症にならないよう十分補液されるように注意すべきである。
化学的(ヘパリン)または機械的(断続的空気加圧)などの血栓予防を行っておくことが推奨される。

5. 手術室の配置
• 患者
- 全身麻酔(心電図とオキシメーターをともなう一般
的麻酔)
- 経口挿管
- 仰臥位 
- 砂嚢で少し両肩を挙上する。
- 頚部は伸展し左頚部アプローチには右に回旋する
• チーム
1. 術者は患者の左側にたち、皮切部と向きあう
2. 助手は術者の対側で、患者の右側にたつ
3. 手洗い看護士は術者の左側で対側、助手の右側にた
  つ
4. 麻酔医
• 機器
1. 手術台
2. 麻酔装置
3. 胸腔鏡装置(オプション)
4. モニター
5. メーヨ台
6. 器械台(大)
7. 電気メス
6. 器具
1. 手術用ルーペ
2. ピーナツ型綿花
3. 経鼻胃管
4. 食道ブジー

- 手術用ルーペ(2.5倍もしくは3.5倍)が望ましい
- 筋切開にはNo.15のメスと低電圧の電気メスを使用す
 る  
- 鉗子にピーナツ型綿花をつけて筋切開時のカウン
 タートラクションに用いる
- 剥離、開創、閉創に必要な標準器具
- 食道用マロニーブジー(または類似の36Fブジー)
- 経鼻胃管と筋切開部のリークテストに用いる50mLの
注射器
7. 原則
機能的輪状咽頭部狭窄を完全に取り除くことがこの手技の目的である。
左頚部の皮切から開創して剥離が行われる。咽頭食道接合部の完全な背側に到達するために、深頚筋膜を越えて咽頭後腔や食道後腔まで剥離をすすめる。筋切開では食道から咽頭におよぶ6×1cmの筋弁を作成しこれを切除する:
- 2cmは頚部食道の近位側
- 2cmは輪状咽頭筋
- 2cmは下後中咽頭の近位側

粘膜は温存する。もし憩室が存在し4cm以下であれば、咽頭後壁に付着している。
それより大きければ、同様の部位に残存させるかたち
で切除する。
8. 咽頭食道接合部の展開
• 皮切
1. 頚横皮神経
皮切は胸骨切痕から左胸鎖乳突筋の前縁2/3に沿って頭側におこなう。
広頚筋は切離する。頚横皮神経を確認する。この神経は術後の顎部の不快感を避けるために、解剖学的バリエーションに応じて温存すべきである。
• 剥離
• 筋肉
1. 肩甲舌骨筋 
左肩甲舌骨筋と前甲状腺筋群は切離する。
• 静脈
1. 中甲状腺静脈
中甲状腺静脈は結紮、切離する。頭側に位置する顔面静脈も切離しないといけないかもしれない。
• アプローチ
• 喉頭神経
1. 反回喉頭神経を温存するため下甲状腺動脈の結紮は外側でおこなう。
切離された前甲状腺筋群のすぐ下方で下甲状腺動脈を確認する。この動脈は反回喉頭神経の損傷をさけるためにできるだけ外側で結紮する。
• 深頚筋膜
助手は喉頭を内側、腹側に牽引し深頚筋膜にテンションをかけて切離する。
9. 輪状筋切開術
• 輪状筋切開術
• 後側への回転
1. 輪状軟骨 
麻酔医は36Fの食道ブジーを患者の口から食道口側1/3
まで挿入する。
助手は甲状腺の左葉とともに喉頭の左側を引き上げつ
つ右にローテートすることによって咽頭食道接合部の
後壁を展開する。この手技とブジーを挿入するにより
筋肉に張りを保つことができ筋切開が容易になる。
筋切開は咽頭食道接合部の後壁から長方形の筋弁を切
除することで完了する。この手技では低電圧で焼灼し
ながら筋切開を行い、冷たいメスの刃で筋弁を持ち上
げ出血を確かめる動作を交互に、粘膜の穿孔をおこさ
ないように注意深く行い、粘膜を完全に露出するよう
にする。
• 剥離/憩室
1. 輪状軟骨
2. 憩室

Zenker憩室があれば完全に温存し、粘膜に達するまで
頚部を徐々に剥離する。筋切開の上限は咽頭後壁で憩
室頚部より約1cm頭側である。
筋弁を切除する。
• 気密性の調節
気密性の調節はエアウェイを確保して行われる。マロ
ニーブジーを取り除き経鼻胃管に入れ変える。チュー
ブの側孔部を筋切開部位に留置する。ここで、外科医
は術野を水で満たし麻酔医が30-50mLの空気を注射器で
胃管に注入することによりリークテストを行う。
リーク部はすべて3.0か4.0吸収糸で縫合閉鎖する。リークが消失するまでテストを繰り返す。こののちに、経鼻胃管の先端は胃内に留置する。
• 憩室
4cm以下:
1. 憩室
2. 咽頭後面と前面
憩室が4cm以下であれば、ポリプロピレン糸またはシルク糸で咽頭後壁上部に3から5針で縫い付ける。

4cm以上:
1. 機械吻合
2. カフのつり下げ
憩室が4cm以上であれば、切除し3.5mmの機械吻合器で
横方向に縫合する。遠位側に1cmのカフを温存し、咽頭
の筋切開部上縁に付着させる。ブジーを経鼻胃管に入
れ換え、前述のようにリークテストをおこなう。

10. 閉創
電気メスで止血を行う。もしも筋切開の途中または後
に出血した場合、特に咽頭レベルでは、4.0吸収糸で止
血することを勧める。筋切開後の粘膜露出部を焼灼し
すぎると、術後壊死や瘻孔形成の原因となる。
広頚筋は2.0吸収糸の連続縫合で閉創する。皮膚は4.0
吸収糸の連続皮下縫合で閉創する。

11. 術後管理
- 患者はできるだけ早く離床させる
- 術後1日目まではベットの頭側を30°のファーラー位
とする。

術後1日目に流動食を開始する。術後1週間後までは徐々に軟菜粥食のレベルをあげ、それ以後は常食とする。
もし胃食道逆流症の症候があれば、15°から 30°のファーラー位を保つようにする。
12. おこり得る合併症
合併症(Sideris, 1999):
麻酔や患者の体調に関するもの

- 誤嚥性肺炎
- 患者の既往歴に関連する心臓合併症
- 血栓閉塞性合併症

外科的合併症:
- 出血、術中・術後血栓
- 確認されればすぐに修復されるべき術中粘膜損傷
- 術中に確認されなかったか、もしくは術後に形成
 された瘻孔。症候は流動食開始に一致した腫脹や
 疼痛、原因不明の発熱などである。

瘻孔が疑われれば、ただちに術後透視を行うべきである。
もし、瘻孔が非常に小さいか確認できない程度であれ
ば、絶食とし抗生剤の投与を行う。
もし瘻孔がより重度であるか、すでに摂食が再開され
ている場合は、外科的処置を考慮し瘻孔部の修復とド
レナージおよび一時的閉創を行うべきである。患者の
状態をみながら、抗生剤を7から14日間投与すべきであ
る。

13. Reference