腹腔鏡下全直腸間膜切除 (tme)

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腹腔鏡下全直腸間膜切除   (tme)

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2002-12
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WeBSurg.com, Dec 2002;2(12).
URL: http://www.websurg.com/doi-ot02jp202.htm

腹腔鏡下全直腸間膜切除   (tme)

1. イントロダクション
全直腸間膜切除(TME)は1988年にHealdによって提唱さ
れたものである。
1998年Healdらの報告に記載されたように、この術式で
は局所再発の危険性が低下するうえに、周囲の神経叢
などの解剖学的構造物を温存することによって永久人
工肛門の造設数も減少させることができる。著者らは
1991年11月に初めてこの術式を腹腔鏡下に施行した。
腹腔鏡下手術では解剖学的構造物を拡大視できるとい
う大きな長所がある(Okudaら,1998)。腹腔鏡下アプ
ローチにおいてもHealdが報告した手技の原則を守るこ
とが可能である。直腸の切除に引き続き、低位結腸直
腸吻合または結腸肛門吻合で消化管再建を行う。本稿
では低位での結腸直腸吻合について述べることとす
る。
2. 適応と禁忌
論理的根拠:
直腸癌の治療として全ての直腸および直腸間膜を
“en bloc”に切除することは解剖学的原理を含んでい
る(Hidaら, 1997; Quirkeら, 1986)。この術式では局
所的な腫瘍細胞の播種をおこさないために、周囲の筋
膜を傷つけることなく“en bloc”に施行する必要があ
る(Enkerら, 1995; Hidaら, 1997)。また局所リンパ節
を含めて切除するという点でoncologic resectionがな
されることとなる。局所再発の危険性は手術の質に左
右されるものであり、これは外科医の経験によるとこ
ろが大きい(Kockerlingら, 1998)。遠位側腸間膜内の
リンパ節転移率は全症例の20%であり、腫瘍の局在と壁
深達度に依存する。リンパ節転移率は直腸S状結腸部で
は10% 、上部直腸では26.3%、下部直腸では19.2%であ
る。pT1またはpT2の癌では0%、pT3の癌では21.9%、
pT4の癌では50%のリンパ節転移率である(Hidaら,
1997)。

適応:
肛門管から2から10cmまでの直腸癌は全直腸間膜切除の適応である。低位直腸癌のT3またはT4症例は良い適応である。上部直腸癌のT3またはT4症例では腫瘍下端から少なくとも5cmの直腸間膜を切除するべきである(Hidaら, 1997)。T3またはT4症例には術前放射線療法を行うことが望ましい。照射終了後6週間目に手術を行った場合、腹腔鏡下アプローチを含めて外科的手技の妨げにはならない。これ以前では極端な骨盤内浮腫によって剥離操作が困難である。

禁忌:
- 腹腔鏡下手術の禁忌症例
- 周囲臓器へ直接浸潤した癌 (T4症例)
- 巨大腫瘍
- 多数の腹部手術瘢痕
3. 手術室の配置
• 患者
患者の配置には十分に注意して、合併症(神経や静脈の
圧迫、腕神経叢の損傷)を予防し術操作と麻酔モニタリ
ングが容易に行えるようにする。患者は両肩の頭側で
支えて固定するか、胸部を縛ることによってずれない
ようにする。
15度から25度のTrendelenburg位で5度から10度右側に傾ける。体幹の左半分に砂嚢を敷き込むことによって中等度の側臥位とする。こうすることによって下腹部臓器を腹腔内の右側に留めておきやすくなる。
Lloyd-Davis位は腹部と会陰部からの操作が両方容易で
ある:結腸直腸吻合を行うためのサーキュラーステープ
ラーの挿入や結腸肛門吻合を容易に行うために会陰部
を手術台の下端に配置することが基本である。
両下肢は開き、臀部と膝を軽く曲げることによって、助手の配置と器具の操作がよりやり易くなる。
右腕は体幹に沿わして、助手が患者の右肩の外側に立
てるようにする。
左腕は直角に開くか体幹に沿わせる。
胃管と排尿カテーテルを挿入し膀胱と胃の内容をドレ
ナージすると同時に、術中の利尿をコントロールす
る。保温機器を用いて体温の放散を防ぐ。

• チーム
この手技は助手1人でも施行できるが、特に経験の少な
い術者では2人の助手と清潔看護師とのチームが望まし
い。
チームは手術を通して同じ位置で手技を行う。

1. 術者
2. 第一助手
3. 第二助手
4. 清潔看護師
5. 麻酔科医
• 機器
手術台は腹部操作と会陰部操作の両方に対応できるも
のでなくてはならない。手術台は体位変換による腹腔
内の展開を容易に行えるようリモートコントロールで
の角度調節が可能なものが望ましい。腹腔鏡機器は患
者の左側に配置する。メインモニター、3CCDカメラ(良
い条件で手術を行うためには必ず必要である)、電子モ
ニターを内蔵した高出力(>= 9L/min)気腹装置が必要で
ある。二酸化炭素量を減らすためにその流量はできる
だけ低く保つべきである(注入か停止の繰り返し)。
ヴォイスコントロール式のロボットアームやカメラホ
ルダーは徐々にカメラ持ちの助手に代わって使用され
るようになってきている。これによってより安定した
画像で剥離操作が行える。

1. 麻酔機器
2. 腹腔鏡機器
3. 手術用電子機器
4. 手術台
5. 超音波発生装置
4. トロッカーの位置
• 原則
S状結腸切除術は3本のみのトロッカーで施行可能であ
るが、困難な症例や特に術者の経験が少ない場合に
は、トロッカーを追加することが望ましい。それに
よってより安全な手術が可能となり、術野の展開や、
脾彎曲の授動が容易となる。
われわれは6本のトロッカーを好んで用いてトロッカー
のサイズを減らすようにしている。患者の体型、手術
歴、臍上部から挿入した第1トロッカーからの腹腔内観
察の所見を参考にしてトロッカーの挿入方法を決定す
る。
腹壁にしっかりとトロッカーを固定することによって
腫瘍細胞が迷入する危険性が減少する(Balli ら, 2000)。トロッカーがしっかりと固定されることにより
手技が容易になる。これは皮切の大きさをトロッカー
の大きさにうまく合わせる、もしくはトロッカーを皮
膚に固定したり、固定のための外筒を用いることによ
り可能である。
• 腹腔鏡
トロッカーA:12mm腹腔鏡用トロッカー
第1トロッカーは臍上部正中線上に挿入するか、小柄な患者では恥骨より20cm頭側に挿入する。
このトロッカーより直視鏡を挿入する。
• 術操作用
• トロッカーB
トロッカーBは5mmのトロッカーを用い、右鎖骨中線上
の臍のレベルに挿入する。これは直腸、S状結腸の剥離
や脾彎曲の授動を行う際の操作用トロッカーとして使
用する(左側結腸を尾側へ牽引する)。
このトロッカーより無鈎把持鉗子を挿入する。
• トロッカーC
トロッカーCは5mmトロッカーを用い、右鎖骨中線上で
トロッカーBの尾側8から10cmの位置に挿入する。これは直腸、S状結腸の剥離操作や、脾彎曲部を授動する際の牽引用トロッカーとして用いる(左側結腸を尾側に牽引する)。
手技の最終段階で12mmか15mmのトロッカーに入れ替え
リニアステープラーの挿入に使用する。

このトロッカーから使用する器具:
鋏(モノポーラー、超音波振動鋏刀、クリップ、ステープラー)、バイポーラーフック、結紮用ループ、吸引洗浄器具、無鈎把持鉗子
• 把持鉗子
• トロッカーD
トロッカーDは5mmトロッカーを用い、左鎖骨中線上の臍のレベルに挿入する。これは脾彎曲の授動の際に操作用トロッカーとする以外は牽引用に用いる。
このトロッカーから使用する器具:
無鈎把持鉗子
鋏(モノポーラー、超音波鋏刀、血管シーリング機具、クリップ、ステープラー)、バイポーラーフック、結紮用ループ、吸引洗浄器具
• トロッカーE
トロッカーEは5mmトロッカーを用い、恥骨の頭側
8から10cmの正中線上に挿入する。これは牽引用に用
い、その後、低位直腸を切離する際にリニアステープ
ラーを挿入するために12mmまたは15mmのトロッカーに
入れ替える。S状結腸間膜や左結腸間膜の剥離に用いる
が、直腸前壁の剥離の際にはこのトロッカーEより可変
型リトラクターを挿入する。
このトロッカーからは鉗子、吸引洗浄器具、ステープ
ラーそして可変型リトラクターを挿入して使用する。

• トロッカーF
トロッカーFは5mmトロッカーを用い、肋弓下の右鎖骨
中線上に挿入する。無鈎把持鉗子をここから挿入して
回腸末端部を外側に牽引することによって、脾彎曲を
授動する際、大網の横行結腸付着部をより良く確認で
きるようにする。
このトロッカーからは無鈎把持鉗子を使用する。


5. 器機
• 腹腔鏡
われわれは直視鏡 または 30゜斜視鏡で視野が70゜の
ものを好んで用いる。
45゜斜視鏡を用いたりMilsomやOkudaのように剥離の際
に他方向からの観察が可能となる先端可動型腹腔鏡を
用いる術者もいる。

1. 直視鏡
2. 30゜斜視鏡
3. 先端可動型腹腔鏡
• 手術器機
1. 鉗子
2. バイポーラー
3. 超音波振動鋏刀
4. リニアステープラー
5. 鋏
6. サーキュラーステープラー
7. 血管シーリング機器
• その他
1. 吸引洗浄器具(癒着剥離にも有用)
2. 肥満症例のトロッカー創閉創用のフレンチ針
3. パースストリング器具
4. クリップ
5. 創保護用ドレープ
6. 摘出用袋
7. 骨盤用可変型リトラクター
6. 観察
• 腹腔内観察
まず腹腔内全体を観察し腫瘍の進行状態を評価する。
無鈎把持鉗子を用いて腹腔内臓器を十分に観察する。
S状結腸の長さ、S状結腸壁の状態と骨盤への癒着の
程度、下行結腸の可動性なども評価しておく必要が
ある。
• 超音波検査
可動型、無菌、再使用可能な10mmのプローベを用いた
超音波検査を薦める著者もいる(Milsom ら, 2000)。
• 病変部のマーキング
上部直腸の腫瘍に対しては、中部から下部直腸を切除
し過ぎないためにも腫瘍部位を確認することは不可欠
である。腫瘍の位置が肉眼で確認できないような場合
は、手術開始前か前日の午後に内視鏡を用いて点墨
(india ink)して位置を明らかにする(Kim ら, 1997;
Okuda ら, 1998)。
7. 展開
• 患者術前処置
• 腸管術前処置
展開は主に腹腔内へ小腸ループを収納する空間と、患者の体位に依存する。消化管を空虚にしておくことで腸管ループの収納が非常に容易となる。手術の1週間前
からきっちりと低残渣食を開始して、手術2日前にポリ
エチレングリコール液を使用することによって完全な
腸管前処置が得られる。
胃管を使用して胃内容も空にしておく。
• 気腹
気腹圧(12mmHg)に加えて、十分に筋弛緩を効かせるこ
とがワーキングスペースを得るために重要である。

1. 筋弛緩
2. 腹壁の弛緩
3. CO2 <= 12mmHg
• 腸管ループの配置
Trendelenburg体位をとることによって大網と遠位側横
行結腸を左横隔膜下に配置する。トロッカーDから挿入
された無鈎把持鉗子を用いることもできる。

空腸は右上腹部に向かって牽引し、右側横行結腸の背
側へ置く。右側への傾斜とTrendelenburg 位、必要で
あれば無鈎把持鉗子を用いることによって小腸をこの
位置に留めておく。

遠位側回腸は右下腹部で盲腸部に沿うように置いてお
く。小腸が著明に拡張している症例で特に肥満患者で
は、手技は困難となる。

1. 大網の牽引
2. Trendelenburg位
3. 右側へ傾斜
4. 小腸ループの右側への牽引
• 特殊なケース
• 骨盤内
可変型リトラクターのような特殊な牽引器具を用いる
と、下部直腸前壁を剥離する際には非常に有効であ
る。これは恥骨上部のトロッカーEから挿入する。

1. リトラクター
• 肥満患者
肥満症例では術野が狭くなる。腹壁が緩んでいる肥満
(女性患者)では、広い術野が残っており、腸間膜も
長く大きな問題にはならない。腹壁がしっかりして
(男性患者)、短く脂肪の多い腸間膜をもった肥満患者
では、術者は徐々に小腸ループを重ねながら術野を展
開する必要がある。
• 癒着
癒着があればより良い展開を得るために、これを剥離
して腸管をフリーとする。しかし、特に盲腸やS状結腸
や脾彎曲の癒着の状況によってそのままにしておくの
が有効な場合もある。
• 子宮
子宮は骨盤内をうまく展開する際の障害となることが
ある。閉経後の患者では全層を貫き前腹壁に固定する
ことができる。この固定は臍と恥骨の中間で行い、膣
と直行させるようにして直腸膣間隙を展開する。
8. 血管アプローチ
• 一般的事項
直腸癌では血管アプローチはリンパ節郭清と同時に行
う。傍直腸リンパ節と下部腸間膜内のリンパ節網が郭
清される。Oncological resectionを行うにあたり必ず
しも下腸間膜動脈(IMA)を根部で切離したり、下腸間膜
静脈(IMV)を膵下縁で切離する必要はない。血管処理を
先行させると結腸、直腸そして腫瘍に触れることなく
S状結腸間膜の内側と背側の剥離操作が可能になる(Okudaら, 1998)。こうすることでS状結腸と直腸S状結
腸部を授動する際にワーキングスペースを広く保つこ
とができる。
IMAはIMVに先立ってクリップして切除するべきであ
る。さもなければ血液の鬱滞によって剥離操作中の小
出血の原因となる。
これらの血管を切除する前に、交感神経幹や左尿管を
確認して温存する必要がある。

1. S状結腸動静脈
2. 上直腸動脈 (SRA)
3. 腹部大動脈
4. 左結腸動脈 (LCA)
5. 下腸間膜動脈 (IMA)
• 腹膜切開
トロッカーEから挿入した鉗子を用いてS状結腸間膜を
腹側に牽引する。つぎに岬角から腹部大動脈の右縁に
沿って頭側にむかい十二指腸付着部まで腹膜を切離す
る。脾彎曲に向かって切離を左側に横切るように延長
しIMVの表面を露出する。
CO2気腹圧による無血管域の層の剥離効果を利用するこ
とによりこの操作は容易となる。

1. 岬角
2. 腹部大動脈右縁
3. 十二指腸第3部
4. 腹部大動脈
5. S状結腸間膜
6. 腸間膜血管
• IMAの切離
• IMAの同定
腹膜を切開したあとは、切開全長にわたって尾側から
頭側に向かい脂肪や線維組織を切離しながら剥離を行
う。
大動脈とIMAが徐々に同定される。IMAの右壁が同定さ
れればその根部は十二指腸空腸移行部のすぐ尾側に同
定される。右傍大動脈交感神経幹や腸間膜内神経叢か
らの神経線維でIMAを取り巻いているものは次々に切除
する。剥離を進めると、傍大動脈交感神経叢の枝を温
存しながらIMAが露出してくる。
上下腹神経の右枝はIMA尾側で大動脈前面を斜めに横切
りながら走行するが尿生殖機能の後遺症を予防するた
めに温存する。このステップはIMA根部を安全に剥離す
るためにもきわめて重要である。
• IMAの切離
IMA根部を大動脈から1cmの部位で、LCAを含めて切離す
ると、周囲のリンパ節組織を含んだ腫瘍学的切除を行
うこととなる。IMAを根部で切除する場合には、IMAの
左縁に存在する左交感神経幹の損傷に注意が必要であ
る。IMAに接して剥離を行うことにより神経幹の損傷は
回避できる。クリップや血管シーリング機器を用いる
ことにより正確な切離が可能であり、左交感神経幹や
左尿管の損傷をさけるためにはリニアステープラーよ
りも好んで用いられる。
• LCAの切離
傍血管リンパ節郭清を行いながらLCA分岐後にIMAを切
除することによっても腫瘍学的リンパ節郭清を行うこ
とができる。
この手技では左側結腸への血流が良好となるが、脾彎
曲の授動を行う際の障害になりえる。IMA左側に存在す
る交感神経幹は温存されるべきである。これを損傷す
ると排尿障害や男性の射精障害をひきおこす。

1. 左結腸動脈 (LCA)
• IMVの切離
IMVはIMAの左側に同定されるが、見つかりにくい場合
は十二指腸空腸曲の左側で同定する。LCAの前方を横
切ったのちに、IMAの左側縁に沿って走行する。
IMVはトロッカーEから挿入した鉗子で前方に牽引す
る。切除を行う前には左交感神経幹から後面を剥離
し、左側縁ではLCAより剥離を行う。
IMVは膵下縁で2クリップの間で切離するが、脾腸間膜
幹と混同しないように注意が必要である。IMVはS状結
腸間膜の剥離の際に小腸が牽引される、いわゆるテン
ティング効果を確認してから切離する。

1. 左結腸動脈
2. 下腸間膜静脈
9. 危険/神経損傷
• IMAの根部
下腸間膜動脈(IMA)を根部で処理する際やIMAの左側端
に沿って剥離を行う際に下腹神経(交感神経)を損傷す
る危険性がある。
• 仙骨岬角
仙骨前間隙で直腸後壁を剥離する際に下腹神経(交感神
経)を損傷する危険性がある。
• 側方の剥離
直腸の側方を剥離する際に、過剰に側方への牽引をか
けると下下腹神経(交感神経・副交感神経)を損傷する
可能性がある。
• 前壁の剥離
直腸前壁を剥離する際に、特にDenonvilliers筋膜の腹
側で剥離を行うと前立腺の尖部と底部の後側壁に位置
する海綿体神経(副交感神経)を損傷する可能性があ
る。
10. S状結腸の授動
• 原則
内側アプローチを用いた授動は、ワーキングスペース
を有効に利用できるうえにS状結腸や直腸に直接触れる
機会を最小限にすることができるので腹腔鏡下手技と
して適している。
血管処理に続いてS状結腸の授動を行う。アプローチは
内側から背側の剥離を先行させても良いし、外側のア
タッチメントを切離してから背側の授動を行っても良
い。われわれは、痩せ型でS状結腸が固定されておら
ず、外側アプローチが適している症例を除けば内側ア
プローチを好んで行っている。内側アプローチでは直
腸の後壁や右側壁の授動が終了したのちにS状結腸の外
側アタッチメントを切離することとなる。こうするこ
とで直腸左側壁の剥離操作が容易となる。

• 後壁の剥離
内側アプローチを用いる。S状結腸間膜後面の剥離は
Toldtのラインまで外側に向かって行う。内側から外側
に向かい剥離を行うにつれて、Toldtの筋膜を介して左
交感神経幹、尿管、生殖血管が透見できる。
下腸間膜血管が切離されれば、S状結腸間膜を腹側に牽
引(trocar E)して背側のスペースを見つける。Toldtの
筋膜とS状結腸間膜との間の層が同定される。この層は
無血管領域であり容易に剥離できる。この層はS状結腸
の背側まで剥離が進んだところで同定される(大動脈左
縁までは同定されない)。

外側方向:
IMAを切離したのちに、その遠位端を腹側から左側に牽
引して左交感神経幹が走行する左側縁を十分に展開する。動脈の左側縁から頭側に向かうS状結腸枝は切離す
る。交感神経幹は背側に温存する。このレベルで交感
神経幹を切除すると男性の逆行性射精の原因となる。
S状結腸間膜と下降結腸間膜の背側面に向かって左側と
腹側に剥離を続けIMVを確認して、IMAと同じレベルま
たはより頭側で膵下縁より尾側で切離する。

尾側方向:
尾側方向へはIMAからSRAの血管鞘の背側面に沿って内
側から剥離を続ける。下腹神経叢からS状結腸間膜へ向
かう神経枝は切離する。Toldtの筋膜の前面でS状結腸
間膜の後面まで剥離してから、この層で外側に向かっ
てToldtのラインまで剥離を続ける。外側のアタッチメ
ントはここまで切離せずに残しておき、S状結腸が術野
の妨げにならないようにする。外側のアタッチメント
は通常は温存しておくが、S状結腸ループが骨盤内操作
の邪魔にならなければ外側アプローチを用いて切離す
ることもできる。

1. Toldt の筋膜
2. 尿管
3. 左交感神経幹


• 外側の開放
上部直腸の背側の剥離を終了したのちにS状結腸の外側
を開放する。S状結腸ループを右上腹部に牽引(トロッ
カーFから鉗子を挿入する)してToldtのラインを緊張さ
せる。
Toldtのラインを開放すれば、前もって内側アプローチ
で剥離が終了している左結腸とS状結腸の背側の層に連
続する。腸間膜を内側に牽引することによって、生殖
血管や左尿管がひっぱりあげられることがあるのでこ
れらの損傷に注意しなければならない。難しい症例で
は内側背側からのアプローチと外側からの剥離を組み
合わせるべきである。尿管カテーテル(蛍光であろうが
なかろうが)を使用すると尿管の同定が容易である。

1. 尿管
2. 生殖血管
3. S状結腸間膜付着部
11. 上部直腸の授動
• 原則
直腸と直腸間膜は局所への播種の可能性を無くすために直腸固有筋膜を侵害することなく-en bloc-に切除するべきである(Hida ら, 1997)。精度の高い切除を行うことにより再発の危険性を減らすことができる(Kockerling ら, 1998)。

1. 前立腺
2. 精嚢
3. Denonvillier筋膜
4. 壁側筋膜
5. 直腸間膜
6. 直腸固有筋膜
7. 下下腹神経叢
• キーポイント
直腸後壁側を仙骨前面筋膜の前方で剥離を開始する。
うまく剥離するポイントは直腸固有筋膜と前仙骨筋膜
との間で前仙骨間隙を開放することである(Enker ら, 2000)。その後に前壁と側壁の剥離を行う。頭側の操作
開始部と側方の操作では神経叢を損傷する危険性があ
る。これらの神経叢は内側を骨盤筋膜で保護されてい
るが、可動性があり剥離操作時に内側に牽引した際(特
に右側)の損傷には注意が必要である。

1. 仙骨前筋膜
2. 壁側筋膜
3. 下腹神経

• 仙骨前間隙
仙骨前間隙の剥離は仙骨岬角から開始して、前仙骨筋
膜の前方に沿って尾側に続ける。展開するには、直腸
を腹側左側に牽引してS状結腸を左下腹部の上方に維持
しておく。CO2圧によって前仙骨筋膜と直腸固有筋膜と
の間の層を同定することが容易となる。外側への剥離
は骨盤内臓神経の左右枝を覆っている骨盤筋膜のちょ
うど内側まで行う。
続いて尾側方向へ向かうが、第4仙骨のレベルまでの剥
離は全く容易である。この部位で2つの筋膜が癒合して
いる。仙骨直腸靭帯(Waldeyer筋膜)がここから始まっ
ている。

1. 仙骨前筋膜
• 直腸外側の剥離
直腸側壁の剥離は臓側傍直腸筋膜と骨盤の壁側側方筋膜との間で行うべきである(Enkerら, 2000; Heald ら, 1998)。右側ではS状結腸間膜付着部における腹膜の切離線を尾側に延長して直腸右側の剥離を行う。腹膜切開を直腸膀胱窩に向かって前方に延長するが、このときにはトロッカーDから挿入した鉗子で直腸を把持して左側前方に牽引する。こうすると筋膜間が展開される。さらに尾側に剥離をすすめると、その存在が議論の対象となる側方靭帯の上縁に到達する。この時点では直腸側壁は側方筋膜と密に接触している。この間隙を横切る骨盤内臓神経叢の直腸枝は切離する。
• 前直腸間隙
• 筋膜の前面
傍直腸間隙の剥離はDenonvilliers 筋膜の前面(Heald
が記載している)でも後面でも施行できる。Healdが記
載している従来の方法では、直腸膀胱窩を切開した後
に、Denonvilliers筋膜は横方向に開放される(Heald ら, 1998)。筋膜前面で剥離を続ける。男性では精嚢と
前立腺が展開され、女性では膣後壁が展開される。男
性患者ではこの層に前立腺と勃起神経が確認される。前立腺の下縁までDenonvilliers筋膜の前面で注意深く剥離をすすめ、そこから筋膜の後面で剥離を続ける。

1. Denonvilliers 筋膜

• 筋膜の後面
Denonvilliers 筋膜の剥離はその後面に沿って、直腸
固有筋膜とDenonvilliers筋膜との間で行う。直腸前壁
の腫瘤に対しては薦められない剥離手技である。なぜ
なら、直腸の後壁や側壁とは異なり、直腸固有筋膜は
漿筋層を直接に覆っており、脂肪組織が介在していな
いからである。
よい剥離層を見つけるためには、トロッカーDから挿入
した鉗子でS状結腸を愛護的に把持し直腸を前方に牽引
する。一方、恥骨上縁のトロッカーEから挿入した鉗子
で前立腺と精嚢を前方に牽引する。
直腸膀胱窩の腹膜を切開すると筋膜間の層が展開され
る。側方に精嚢の後壁を確認した後に壁側筋膜の後面
を剥離する。さらに前立腺の後面に向かって正中の剥
離を続ける。

1. Denonvilliers 筋膜
12. 下部直腸の剥離
• イントロダクション
肥満患者や狭骨盤の患者では下部直腸の剥離は困難で
ある。温存しなくてはならない血管や神経組織が密接
しているためである(Enker ら, 2000; Heald ら, 1998)。生殖・排尿機能を温存するためには中痔核動静
脈(時に大きい)や後仙骨窩より出る副交感神経枝の損
傷に注意が必要である。剥離は直腸の後壁、側壁そし
て前壁の順に行って、側方を徐々にフリーにする。
下部直腸の剥離は超音波振動剪刀または血管シーリン
グ機器を用いると容易に行える。
• 背側の剥離
仙骨直腸靭帯(Waldeyer筋膜)を開放した後は、仙骨の
前面で直腸後壁に沿って尾側に剥離を続ける。仙骨の
骨膜前面を走行する仙骨前静脈叢に注意する必要があ
る。この静脈叢は第3から第5仙骨の大きな2-5mm径の仙
骨孔へ流入していく後枝により形成されており、仙骨
管孔の静脈叢へと流れ込む。
さらに低位の直腸は直腸尾骨靭帯に支持されている。
超音波振動剪刀を用いるか、または焼灼してからこの
靭帯を切離すると直腸後壁がさらに1から2cm剥離され
て肛門挙筋を同定できるようになる。
• 前壁の剥離
前壁の剥離は、直腸を背側に牽引しつつ、恥骨上部の
トロッカー(トロッカー E)から挿入した器具でDenonvillier筋膜を把持して子宮もしくは前立腺を腹
側に牽引することにより容易となる。このレベルでは
下部直腸の前壁の剥離は側壁の剥離を終了して初めて
可能になる(特に男性の場合)。

1. 前立腺
2. 直腸
• 下部側壁の剥離
側方靭帯の低位を切離すると下部骨盤腔が展開され
る。初めに右側を、次に左側を展開する。左側では傍
結腸溝の腹膜翻転部を直腸左側まで切り下ろす必要が
ある。前側壁表面から直腸に入る1から数枝の中痔核静
脈は通常は側方靭帯の下部で確認される。この枝は時
に確認され、いつも両側性であるのではなく、時には
多発している。これらはクリップまたは焼灼(バイポー
ラー、血管シーリング機器や超音波振動剪刀)して処理
するべきである。このレベルでは骨盤神経叢の最終枝
が膀胱、前立腺や生殖臓器に枝をだす(Enker ら, 1995; Enker ら, 2000)。
13. 脾彎曲の授動
• 一般的事項
低位結腸直腸吻合や結腸肛門吻合を緊張がかからない
ように行うためには脾彎曲の授動が必要である。授動
は手術手技の初めに行っても良いし、直腸を摘出する
前でも後でも良い。超音波振動剪刀は便利であるが、必ずしも必要ではない。
S状結腸が長くて健常な患者を除いては、左側結腸の剥
離には側方と後方のアタッチメントの切離と残存結腸
に血流を維持した形での血管処理を伴う広範囲な剥離
操作が必要である。腹腔鏡下で血流の評価を行うこと
は時に困難である。

1. 外側アプローチ
2. 内側アプローチ
• 内側の授動
脾彎曲内側の授動は、患者の右側に位置する術者に
とって腹腔鏡でのアプローチが最適な手技であって
、膵前面、左側横行結腸間膜根部、脾彎曲後面の視野
が非常によい。
S状結腸間膜の内側背側を剥離してからToldtの筋膜の
前面の層で頭側に剥離を続けると膵の前方の層にいた
る。

1. IMV 
2. 脾静脈
3. 横行結腸間膜根部
4. 胃
• 側方の授動
外側アプローチでは開腹手術が一般的である。脾彎曲
が固定されていない容易な症例に対して使用する。外
側と背側のアタッチメントを切離すると完了する。

1. 横行結腸への大網の付着部
2. 横隔膜結腸靭帯
3. Toldtのライン
4. Toldtの筋膜
14. 直腸S状結腸の切離
• 戦略
近位端と遠位端の切離は標本摘出前に行う。標本の摘
出はあらゆる腫瘍細胞の播種を避けるために愛護的に
行うべきである(Okuda ら, 1998)。
標本は摘出前に防水性でしっかりと閉鎖できるプラス
チックバッグに収納する。通常は遠位側の切離を先に
行うが展開が難しい場合には近位側の切離を先行させ
ても良い(Okuda ら, 1998)。腫瘍の肛側縁から少なく
とも2cm、口側は10cm離して直腸間膜を全て含めて切離
する。
• 直腸の切離
低位直腸の閉鎖:
剥離された直腸の遠位部を結紮またはクランプ鉗子ま
たはステープル鉗子で処理して閉鎖する。閉鎖された
直腸は肛門管から挿入したカニューレを用いてイソジ
ン液で洗浄する。こうすることで切離線に腫瘍が生着
することを予防できる。抗生剤や抗腫瘍作用のあるイ
ソジン液で洗浄することはBalliら(2000)も提唱してい
る。

直腸の切離:
低位直腸を愛護的に背側に牽引することによって展開
する。この牽引は直腸端を腫瘍の肛門側で閉鎖するた
めに用いた糸を用いることによって行う。切離は可動
式リニアステープラーを用いて施行する(45 mm, ブルーまたはグリーンカートリッジ)。

• 結腸の切離
直腸癌では多くの術者は口側切離部をS状結腸のレベル
で行う。結腸は状態が良く、しなやかで、血流が良い
部位で切離する。
S状結腸に憩室炎などの合併疾患がある場合は下行結腸
で切離を行う。
S状結腸間膜の切離は血管シーリング機器、超音波振動
剪刀、リニアステープラーを用いて行い、S状結腸間膜
全体を切除する。
結腸の切離はリニアステープラーを用い、内腔を開放
することなく清潔下に切離する。
ステープラー(ブルーカートリッジ)は右腸骨窩の
トロッカーCより挿入する。

1. 辺縁動脈
2. 下腸間膜血管
• 直腸・S状結腸の隔離
切離が終われば標本を十分な大きさで、しっかり閉鎖
することができる回収用のプラスチックバックに収納
する。こうすることで腫瘍細胞が腹腔内へ接触しない
ようにしながら手技を続けることができる。バッグは
トロッカーEまたはCから挿入する。標本が非常に大き
い場合は左結腸の授動を行う前に摘出する。
15. 直腸の摘出
• 原則
直腸の摘出は創保護器具を装着した小切開創から行
う。標本は摘出前にしっかりと閉鎖されたプラスチッ
クバッグに収納して隔離しておく。標本摘出後に腹腔
内洗浄を推奨する著者もいる。
• 切開
通常、小切開創は恥骨上部におく。左下腹部を薦める
著者もいる。近位側の結腸切離断端を左下腹部または
右下腹部の切開創まで容易に持ち上げることができれ
ば、授動した結腸が骨盤へ下りて緊張がかからずに吻
合できる目安となる。
切開は摘出標本の大きさに適するものが必要である。
摘出の際にも標本を崩さないように注意しなければい
けない。
• 摘出
標本はしっかり閉鎖されたプラスチックバッグに収納
して摘出する。腹部切開創(7から11cm)も創保護具で覆う。この保護具は摘出に続いて体内で結腸直腸吻合を
行う際にも腹腔内の気密性を維持するために用いる。

創保護具:
創保護具を切開創へ挿入した後に、切除した直腸とS状
結腸を内包したプラスチックバッグを皮膚まで引き上
げる。そこで腹腔内播腫に注意しながらバッグを開け
て標本を摘出する。

1. プラスチックバッグ
2. プラスチックドレープ
16. 直接吻合
• 原則
結腸直腸吻合は繊細な手術手技である。腹腔鏡下手術
により高率におこり得る瘻孔の発生率はこの段階の難
易度に依存する(Hartley ら, 2001)。われわれは、特
に術前放射線療法後で低位結腸直腸吻合や結腸肛門吻
合を行った症例には一時的人工肛門を必ずつける必要
があると考えている。
端端直線吻合またはJ型嚢を作成した後に吻合を行う。
吻合には体外からと体内からの両方のステップがある。体外操作は創保護具で切開創を覆ってから左側結
腸を体外に誘導して行う。
• 前処置
まず、プラスチックバッグで保護した小切開創から結
腸を体外に誘導する。結腸が容易に恥骨を越えて体外
に誘導されることが、緊張がかかることなく下部骨盤
腔で吻合するための目安となる。
体外で結腸の血流と状態を評価する。スパスティック
な結腸の場合、J型結腸嚢を作るか、より高位の状態の
良い下行結腸を吻合に用いることを推奨する。吻合部
周囲の腹膜垂は切除する。

1. 恥骨結合
• アンヴィルの装着
手縫いまたはpurse-string機器でまつり縫いを行った
あとにサーキュラーステープラーのアンヴィル(少なく
とも直径28mmのもの)を大腸の遠位端に装着する。アン
ヴィルは容易に大腸管腔内に装着されなければならな
い。大腸壁にダメージを与える可能性があるためブジーを用いた拡張は必要ない。大腸の状態が良ければ
容易にアンヴィルを挿入することができる。
巾着縫合をアンヴィルのシャフトにしっかりと結びつ
ける。この後に、アンヴィルを装着した左側結腸を腹
腔内にもどす。

1. 少なくとも直径28mm
• 吻合
吻合は再気腹を行った後に腹腔鏡下に施行する。腹膜
と筋層を縫合することによって腹壁を閉鎖する。気密
性を得るために、われわれは先に装着した創保護具を
一旦閉鎖することによって、再度開腹を行わずに結腸
を体外へ誘導できる方法を好んで使っている。
この腹腔内での操作は完全に腹腔鏡下に行える。創保
護具を装着した開腹部を閉鎖して気密性が保たれたら
再気腹を行う。トロッカーDより挿入したリトラクター
を用いて骨盤内を再度完全に展開する。サーキュラー
ステープラーを用いて吻合を行う。
患者の股間から、愛護的に肛門ブジーを行った後に助
手がサーキュラーステープラーを肛門から直腸断端へ
挿入する。直腸断端をサーキュラーステープラーのチップと結合させる。
アンヴィルがサーキュラーステープラーと接合したと
ころで結腸のねじれがないことを必ず確認する。腸間
膜の背側が仙骨窩に位置し、周囲臓器や大網がはさま
れていないことを確認した後にステープラーを締めて
ゆく。吻合器具製造元の操作法に従って吻合を行う。
吻合が終了すると結腸は仙骨窩に落ちつく。
最後にステープラーをゆるめて肛門から引き抜く。
17. 吻合/J型嚢
• J型嚢
結腸嚢を用いて吻合を行うことができる。このために
は創保護を施した切開創から左側結腸を誘導するため
に十分に授動を行う必要がある。恥骨上部に切開を行った場合、嚢の上端が恥骨を容易に越えて下ろすこ
とができなければならない。結腸J型嚢(6から7 cm の
高さ)は腸間膜対側の結腸ヒモをリニアステープラーか
手縫いで縫合して作成する。嚢の尾側端を切開して
サーキュラーステープラーのアンヴィルを挿入する。
• アンヴィルの装着
結腸嚢の遠位端にまつり縫いを行ったあとにサーキュ
ラーステープラーのアンヴィル(少なくとも直径28mmの
もの)を装着する。手縫いまたはpurse-string機器を用
いてまつり縫いを行う。
アンヴィルは容易に大腸管腔内に装着できる状態でな
ければならない。巾着縫合をアンヴィルのシャフトに
しっかりと結びつける。この後に、アンヴィルを装着
した左側結腸を腹腔内に押しもどす。
• 縫合
吻合は再気腹を行った後に腹腔鏡下に施行する。腹壁は腹膜と筋層を縫合すると閉鎖される。気密性を得るために、われわれは先に装着した創保護具を一旦閉鎖することによって、再度開腹を行わないでも結腸を体外へ誘導できる方法を好んで使っている。
結腸嚢の先端に装着したアンヴィルを骨盤内に引き下ろす。そこでサーキュラーステープラーの本体と結合させる。嚢は腹側に位置して腸間膜は仙骨窩に接して位置する。吻合が終了すると結腸と直腸は仙骨窩にうまく収まっていなければならない。なぜなら、結腸がまっすぐな形状になると、縫合不全の危険性が増加するのみならず、本来の直腸肛門角(自然体で90゜)が消失することに起因する二次性の便秘となる危険性があるからである。
18. 手技のおわりに
• 吻合の確認
吻合は必ず確認しなければならない。この方法として
は切離した直腸結腸のリングがそれぞれ完全であるこ
とを確認すること、別記のエアーリークテストなどが
あるが、さらに経肛門的内視鏡検査を行う著者もいる
(Franklin ら, 1996)。超低位吻合ではエアーリークテ
ストは不可能である。
• エアーリークテスト
吻合部が浸かるように骨盤内に生理食塩水を満たす。
岬角の高さで結腸をクランプする。肛門管に挿入した
シリンジから空気を低圧で注入する。バブルが確認さ
れなければ縫合部のリークはないことになるが、術後
の瘻孔形性の危険性は否定できない。
• 色素試験
色素の注入ができれば、エアーリークテストは完全な
ものになる。骨盤を洗浄したあとにシリンジを用いて
イソジン液を直腸内へゆっくりと注入する。これが
リークを確認する助けになる。もし前壁に小さなリー
クが見つかれば縫合することができる。大きなリーク
の場合は経肛門的または経腹的(腹腔鏡下または開腹手
術)に再吻合を行うべきである。このような場合には
一時的人工肛門(回腸人工肛門が望ましい)が通常必要
である。メチレンブルー試験もイソジンテストの代用
になる。しかし骨盤内が染色されて、さらなる検索の
妨げになることがあるためわれわれは使用していない。
ドレーンは通常留置していない。微小出血が続く場合
にのみドレーンを留置している。

1. 空気
• 一時的人工肛門
低位結腸直腸吻合、特に放射線療法後の症例では瘻孔
形成の危険性が高いため一時的人工肛門の増設が望ま
しい(Heald ら, 1998)。われわれの経験では15%に発生
する瘻孔による治療困難な症例を減らすことができ
る。多くの著者はループ式回腸人工肛門を好んで用い
る。回腸末端を用いれば、吻合部の血流を保つために
好都合となるためである。また、右側横行結腸も人工
肛門として利用することができる。腹腔鏡下に挙上す
る腸管部位を決定する。

1. 回腸人工肛門
2. 横行結腸人工肛門
• 閉創
われわれは吻合の前後に適量の腹腔内洗浄を行ってい
る。
トロッカーを抜去する前に腹腔内圧を抜いておくこと
が望ましい。これにより大網や小腸が嵌頓する危険性
を避けることができ、腫瘍の播種もまた避けることが
できる。同じ理由でトロッカー創をイソジン液で洗浄
することを薦める著者もいる(Balli ら, 2000)。
トロッカー挿入孔は注意深く閉創する。腹壁瘢痕ヘル
ニアを避けるために5mm以上の創は閉創するべきである。肥満患者ではフランス式の鈍針器具などを用いれ
ば非常に有用である。
胃管は通常、留置しない。患者が覚醒するとすぐに胃
管を抜去する外科医が多い。われわれは術後1日目に抜
去している。
術後できるだけ早期に離床を行う。腸管機能が回復す
ればできるだけ早期に摂食を開始する。尿管カテーテ
ルはいかなる感染も避けるためにすぐに抜去する。深
部静脈血栓症の予防は常時行っている(低濃度のヘパリ
ン投与)。

19. 結論
全直腸間膜切除とは骨盤口から骨盤底までの直腸と傍
直腸リンパ節組織(直腸間膜)を-en bloc-に全部切除す
ることである。しかし、この術式には出血、神経損
傷、局所再発、瘻孔形性そして吻合部狭窄などの危険
性がある(Hartley ら, 2001)。骨盤を剥離する際に解
剖学的構造物を拡大視できることや手技を完全に映像
化できることは手術手技の教育や普及を容易にする。
長期成績としての腹腔鏡下手術の良好な腫瘍学的根拠
は証明されていないが、早期の成績では有望なものが
示されている。われわれの経験では腹腔鏡下で行うこ
の術式は、開腹手術と同様の結果を示している。免疫
力をより温存すること(Nishiguchi ら, 2001)によって
リンパ節転移陽性の症例に対して行う補助化学療法を
すぐにも開始することができ、将来的には生存率の向
上につながることが期待される。大腸直腸外科や腹腔
鏡外科の分野での技術をもった外科チームの手助けに
よる教育の普及が望まれている。
20. Reference