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胆道損傷: 診断と治療





JF Gigot , MD , PhD , Hô pital St Luc, Louvain Medical School, Brussels, Belgium
B Malassagne , MD , PhD , Hôpital Henri Mondor, Université Paris XII, Créteil, France




1. イントロダクション

2. 開腹胆嚢摘出術

3. 腹腔鏡下胆嚢摘出術

4. References


1. イントロダクション

胆道損傷(Biliary tract injuries :BTIs) は胆嚢摘出術の際の、最も重大でかつ場合によっては患者の生命を脅かす可能性のある合併症である ( Rossi, 1992; Kern, 1992; Strasberg, 1995; Woods, 1996 )。
1987にフランスでPhilippe Mouret ( Mouret, 1991 )により、腹腔鏡下胆嚢摘出術が紹介されて以来、この } 医原性胆道損傷 ∼ は世界中で多くの報告がされるようになった。
Figure
Figure 1




1. イントロダクション

2. 開腹胆嚢摘出術

3. 腹腔鏡下胆嚢摘出術

4. References


2. 開腹胆嚢摘出術

2.1. 胆道損傷の頻度

国レベルの調査 ( Rosenquist, 1960; Bismuth, 1981a, 1981b; Andren-Sandberg, 1985 )もしくは多施設調査 ( Clavien, 1992; Roslyn, 1993; Gouma, 1994 )では、開腹胆摘術の場合の胆道損傷の頻度は0.1-0.2%と報告されている。
Table 2.1: 開腹胆摘術における胆道損傷
報告者
出版年度

症例数
胆道損傷発生率(%)
国での調査
Rosenquist
1960
Sweden
21530
43 (0.20%)
Bismuth
1981
France
53637
84 (0.16%)
Andren-Sandberg
1985
Sweden
92856
65 (0.07%)
168023
192 (0.11%)
多施設調査
Clavien
1992
USA/Switzerland
1088
0 (0%)
Roslyn
1993
USA
42474
91 (0.2%)
Gouma
1994
Netherlands
8780
45 (0.5%)
52342
136 (0.25%)

2.2. リスクファクター

開腹胆摘時のリスクファクターには次のようなことが挙げられる:
  1. 経験不足の術者(learning curve)( Bismuth, 1981a, 1981b )
  2. 急性胆嚢炎、硬化性萎縮性胆嚢炎
  3. 解剖の誤認
  4. 不完全な胆道造影、もしくは失敗
  5. 解剖学的変位および過剰の出血 ( Collins, 1984; Browder, 1987 ).
胆道解剖のバリエーションは18-39%の症例に見られる ( Majeed, 1994; Martin, 1995; Ortega, 1995 )が、その中で胆道損傷を導く危険性のある変位はほんの3-6%にすぎない。右肝管の変位が最も危険なタイプの変位と考えられる ( Puente, 1983 )。

2.3. 胆道損傷の種類と重傷度

開腹胆摘術時の胆道損傷には次のようなものが含まれる:
  1. 不完全切離
  2. 完全切離
  3. 裂傷
  4. 二重損傷 ( Bismuth, 1981a, 1981b ).
Bismuth ( Bismuth, 1981a, 1981b ) は、損傷個所については次のようにも報告している:
  1. 総胆管    51%
  2. 総肝管    39%
  3. 右肝管    9.9%
  4. 肝管分岐部  0.7%
術後胆道狭窄は正常胆道が存在する部位によって、次の5つのタイプに分類できる(figure 1) ( Bismuth, 1982 )。
Type I:下部総胆管狭窄 (肝管分岐部より 2 cm以上末梢側)
Type II:中部総胆管(総肝管)狭窄 (肝管分岐部より 2 cm未満)
Type III:肝管分岐部直下の上部・肝門部狭窄
Type IV:肝管分岐部を含んだ肝門部狭窄
Type V:異所性後区域枝の総胆管(肝管)流入部

Bismuthら ( Bismuth, 1981a, 1981b ) およびBlumgartら ( Blumgart, 1984; Chapman, 1995 )による頻度の報告:
  • type I   13% 、 16%
  • type II 26% 、 23%
  • type III 38% 、 37%
  • type IV 18% 、 23%
  • type V 5% 、 1%
flash
Figure 2.3


修復手術の時点での胆道損傷の重症度は、次に挙げる事柄によりさらに強調される:
  • 同様の手術既往がある患者
  • 肝管分岐部付近の胆道狭窄の存在
  • 肝内結石、動脈病変、肝腫大・萎縮
  • 二次性肝硬変(時に門脈圧亢進を伴う)の合併

Table 2.3:胆道狭窄患者における重症度を強調する臨床症状

Chapman, 1995
肝内結石
44%
-
胆汁外瘻
12%
-
胆道消化管瘻
10%
-
肝動脈損傷
39%
14%
肝萎縮、腫大
5%
16%
二次性肝硬変
8%
-
門脈圧亢進
-
18%
胆道損傷を術中に確認する割合は報告によって差がある。Chapman ( Chapman, 1995 ) 18%、 Pitt ( Pitt, 1982 ) 25%、Gigot ( Gigot, 1997 ) 45%、Mathisen ( Mathisen, 1987 ) 52%、Bismuth ( Bismuth, 1981a, 1981b ) 55%、Andren-Sandberg ( Andren-Sandberg, 1985 ) 85%

2.4. 外科的治療

胆道再建で最もよく施行される手術は、Hepp-Couinaud法 ( Hepp, 1956; Hepp, 1985 )によるRoux-en-Y 肝管空腸吻合術 ( Bismuth, 1981a, 1981b; Blumgart, 1984; Browder, 1987; Chapman, 1995 )である。胆道の再狭窄を防ぐためには、肝管腸管吻合において粘膜同士が接するように十分注意を払う必要がある。 ( Bismuth, 1981a, 1981b; Hepp, 1985 ) もう一つの方法としては(多くはT-チューブを使用した)胆管-胆管端々吻合がある。この場合には健常粘膜が連続すること、切除胆管の範囲が短いこと、吻合部に緊張がかからないことが重要で、吻合にはマイクロサージェリーの技術が必要となってくる ( Bismuth, 1981a, 1981b )。

胆道損傷に対する胆道再建術における最適条件:
(a) 局所の炎症がないこと
(b) 中枢側胆道が拡張していること
(c) 初回の胆道損傷から、少なくとも2~3ヶ月経っていること
(d) 胆道粘膜-粘膜吻合の際のマイクロサージェリーの技術があること
(e) 正常胆道粘膜で吻合を行なうこと

2.5. 治療成績

開腹胆摘術における胆道損傷に関するほとんどの研究は、後期胆道狭窄に焦点を当てている。術後死亡率は5%以下にまで減少してきた ( Pitt, 1982; Blumgart, 1984; Chapman, 1995 )。胆道狭窄に対する再手術を受けた患者の長期成績は75~96% が満足のいく結果であった ( Way, 1972; Myburgh, 1993 )。しかし その成績は時間の経過とともに悪くなっており、さらに長期のフォローアップ (10-15年)が必要である ( Bismuth, 1981a, 1981b; Blumgart, 1984; Mathisen, 1987 )。

胆道再建術の結果に影響を与える予後因子としては、次のことが挙げられる:
最近になりTocchi ( Tocchi, 1996 )は多変量解析により、胆道拡張の程度と初回胆道再建手術後の胆道系合併症の有無が再狭窄を起こすかどうかの独立予後因子であることを報告した。




1. イントロダクション

2. 開腹胆嚢摘出術

3. 腹腔鏡下胆嚢摘出術

4. References


3. 腹腔鏡下胆嚢摘出術

3.1. 腹腔鏡下胆嚢摘出術における胆道損傷の発生率

腹腔鏡下胆嚢摘出術の導入により、胆道損傷の危険性は明らかに高くなった。
米国において Russelが1996年 に行なった30,211症例を対象にしたアンケート調査では、胆道損傷の頻度は、開腹手術を行なっていた1989年の0.04%から、腹腔鏡下胆摘術を導入した1991年には0.24%に上昇し、その後1993年には0.11%に再び減少していた。ベルギーにおけるアンケート調査では、胆道損傷の頻度は0.5% から、術者の経験に応じて0.35%~1.3%と変化していた ( Gigot 1997 )。
オーストラリアにおける調査では、その頻度は0.15%であったのが、腹腔鏡下胆摘術導入後の1991-92 年には0.23% 、1994年には 0.29% と上昇していた ( Fletcher, 1999 )。
Figure
Figure 3.1


報告結果からは、腹腔鏡下胆摘術は開腹胆摘術に比べて胆道損傷発生率が2.5倍~4倍高いといえる ( Shea, 1996; Adamsen, 1997; Gigot, 1997; Fletcher, 1999 )。米国では30,000 件の胆嚢摘出術が行なわれているので、米国だけでも年間約1,500件が胆嚢損傷の影響を受けていることになる。

胆嚢損傷が発生すると、有症状胆石症に対する治療コストは劇的に上昇する。実際にJohns Hopkins Medical Institutionでは総胆管損傷に対する全ての治療コストの平均は$51,411 (US) とはじき出しており、これは合併症のなかった場合の4.5~ 26.0倍にあたる ( Savader, 1997 )。

3.2. リスクファクター

胆道損傷の最大の原因は、術中Calot三角の解剖を確認しなかったことにある。これは腹腔鏡アプローチ独特のいくつかの要因、外科医の訓練不足、局所の悪条件などに原因がある。

腹腔鏡アプローチ独特の要因:
  • 2次元画像である
  • 肝門部領域の触知ができない
  • 総胆管への接線方向、尾側方向からのアプローチ
  • コントロール困難な出血による術野不良
  • 手術器具の性能が原因による術操作困難
  • 手術器具の盲目的操作
  • 電気メスの不適切な使用
  • 腹腔鏡手術に不慣れな術者 ( Asbun, 1993 )

腹腔鏡手術における外科医の"learning curve"は胆道損傷発生率と大きく関わっている ( The Southern Surgeons ’ Club, 1995 )。
The Southern Surgeons ’ Clubの報告では、腹腔鏡下胆嚢摘出術8,839例のうち胆道損傷を起こした症例の90%が30症例未満の経験の術者であった ( The Southern Surgeons ’ Club, 1995 )。統計的回帰モデルを使用すると、初めての腹腔鏡下胆嚢摘出術で胆道損傷を起こす危険性は1.7%、5回目では0.57%と計算している。
Figure
Figure 3.2.a


Orlandoら ( Orlando 1993 )にって報告されたコネチカット州における調査では、報告された胆道損傷15例の半数が術者経験の最初の10症例目までに起きており、3分の1が11-50症例までで、50症例以降に起きたのはたった2例(13%)のみであった。Deziel ( Deziel, 1993 ) は複数国にわたる腹腔鏡下胆嚢摘出術77,604 症例を対象に調査し、胆道損傷の頻度は0.6% と報告している。また、100例以上の経験を持つ術者の施設では、その頻度は有為差を持って低くなっていた(0.65% versus 0.42%, p < 0.001)。しかし、最近報告された腹腔鏡下胆嚢摘出術10,000症例以上の報告では、(“learning curve”に対応して),胆道損傷発生率が減少しているにもかかわらず、未だその率は開腹胆摘術のレベルにまでは下がっていないとしている ( Wherry, 1996 )。
局所解剖的なリスクファクターも腹腔鏡下胆嚢摘出術中の胆道損傷と関連がある:
Kum ( Kum, 1996 ) は単純な胆嚢摘出術での胆道損傷発生率が0.2%であるのに対して、急性胆嚢炎での場合は5.5%に上昇すると報告している (p = 0.005)。
Russel ( Russel, 1996 ) は急性胆嚢炎と胆石膵炎では胆道損傷の頻度が上昇するとしている。

これらの局所の状態によるリスクファクターは胆道損傷のうちの15%から35%に上昇する ( Strasberg, 1995 )。 胆嚢管が短い症例や胆嚢管が右肝管に流入している症例のような胆道解剖の変位例では、やはり胆道損傷の頻度は上昇する ( Cates, 1993; Lee, 1993 )。
Figure
Figure 3.2.b


胆摘術19,186症例における多変量解析 ( Fletcher, 1999 )、では、次のような胆道損傷の可能性を高める独立因子が挙げられた:
  • 男性
  • 年齢
  • 教育病院
  • 腹腔鏡アプローチ
  • 困難な局所状態での胆摘術 (急性膵炎後、閉塞性黄疸、胆管炎、急性胆嚢炎)
  • 術者の learning curve
  • 術中胆道造影の未施行
解剖学的変位、特に右肝管もしくは右肝動脈などの解剖学的変位をリスクファクターとしてあげるものもいる ( Hugh, 1992; Scott-Conner, 1992; Ogenyk, 1994 )。
Figure
Figure 3.2.c

3.3. 重傷度分類

特定の施設での217 症例 ( Asbun, 1993; Ress, 1993; Woods, 1994; Woods, 1995 )での報告を、Bismuth分類に従って集計すると、胆道損傷の頻度は次のようになる:
type I     67 症例 (31%)
type II    63 症例 (29%)
type III    51 症例 (23%)
type IV    19 症例 (9%)
type V     17 症例 (8%)
しかし、合衆国での多くの報告によれば胆道損傷は高位胆道に多く、近位胆道損傷を複数個所合併している ( Davidoff, 1992; Kern, 1992; Branum, 1993 )。
Russel がコネチカット州で行なった調査では、開腹胆摘術 (OS)と腹腔鏡下胆嚢摘出術 (LS)で胆道損傷のタイプを比較すると、腹腔鏡下胆嚢摘出術の方が総胆管・総肝管の損傷が多い (2/ 14,990 (OS) vs 20 / 15.221 (LC) (p < 0.001)という結果が得られた ( Russel, 1996 )。
Strasberg は腹腔鏡下胆嚢摘出術後の胆道損傷についての過去の24文献270症例を集計し、その65%の症例が総胆管の完全切離であったとしている ( Strasberg, 1995 )。
その一方でGoumaは、開腹胆摘術と腹腔鏡下胆嚢摘出術の間で胆道損傷のタイプの違いに有為差はなかったと報告している ( Gouma, 1994 )。

Strasberg ( Strasberg, 1995 ) は腹腔鏡下胆嚢摘出術導入後に新しい胆道損傷の分類を提唱している。

3.3.1. 胆道損傷および胆道狭窄のStrasberg 分類
Class A: Luschka管もしくは胆嚢管からの胆汁漏を伴う、小さな胆管の損傷
Class B: 胆道系の部分的閉鎖を伴う、肝管区域枝の結紮
Class C: 胆道系以外からの胆汁漏を伴う肝管区域枝の損傷
Class D: 肝外胆管の側面の損傷
flash
Figure 3.3.a


Class E1: 肝管分岐部から 2cm以上離れた胆管の狭窄
Class E2: 肝管分岐部から2cm以内の胆管の狭窄
Class E3: 肝管分岐部直下までの狭窄
Class E4: 肝管分岐部を含んだ狭窄
Class E5: 肝管区域枝も含めた胆管の完全閉塞
( Mayo Clinic, Rochester, Minn, 1998 )
flash
Figure 3.3.b


Gouma の行なった比較研究では、腹腔鏡下胆嚢摘出術2,932 症例中、術中に胆道損傷を発見できたものは34% 、開腹胆摘術では8,780 症例中55%であったが、有為差はなかった ( Gouma, 1994 )。
一方, Russel は両者の間に有為差を認めており、それによると術後に胆道損傷が明らかになったのは開腹胆摘術では14,990症例中1例もなく、腹腔鏡下胆嚢摘出術では15,221症例中11例であったと報告している(p < 0.001) ( Russel, 1996 )。
ベルギーでの調査では、腹腔鏡下胆嚢摘出術中に胆道損傷が明らかになるのは45% としている ( Gigot, 1997 )。

3.4. 胆道損傷の原因

米国での特定の施設での報告では、腹腔鏡下胆嚢摘出術中の胆道損傷のいくつかの原因の詳細を挙げている ( Davidoff, 1992; Rossi, 1992; Branum, 1993; Roy, 1993; Soper, 1993 )。

最も一般的な原因は、Calot三角の剥離操作中の胆嚢管と総胆管の誤認である。このタイプの胆道損傷では、総胆管の一部を傷つけてしまったり、時には同時に右肝動脈を損傷することもある。腹腔鏡下胆嚢摘出術における胆道損傷の67% を占めている ( Soper, 1993 )。

3種類の 古典的な胆道損傷 (classic injury)を下記に示す。
まず最初は、総肝管と胆嚢管が紛らわしい場合である ( Davidoff, 1992 )。 この損傷では総胆管を誤認することで、ここにクリップを掛けたり結紮をしてしまう。胆嚢側のクリップは通常の胆嚢管の位置に掛けられ、その後クリップの間を切離・胆嚢摘出が行なわれる。このタイプの損傷では胆嚢管断端から胆汁漏出が続くことになる。

次に、胆嚢のハルトマン嚢部分を過剰に牽引することで生じる総胆管のテンティングが挙げられる ( Davidoff, 1992; Branum, 1993 )。過剰の牽引により突出した部分の総胆管が、一部損傷を受けることになる。胆嚢管の引き抜き損傷も同様のメカニズムで生じると思われる ( Cates, 1993 )。

最後は、右肝管の総胆管(総肝管)合流部を胆嚢管と見誤ることによる、右肝管単独の損傷である。これは胆嚢を前上方に牽引することでますます起こしやすくなる ( Davidoff, 1992 )。

総胆管側面に対するクリップやハサミによる単純な損傷は、突然の出血 ( Rossi, 1992 ) やそれに慌ててクリップを掛けたときにみられる ( Soper, 1993 )。
Calot三角の剥離操作や出血コントロールのために、肝門部付近でのモノポーラー電気メスの過剰な使用 ( Davidoff, 1992; Rossi, 1992; Voyles, 1992; Hunter, 1993 、もしくはレーザー凝固の使用 ( Hunter, 1991; Moosa, 1992; Hunter, 1993 ) による熱損傷は、腹腔鏡下胆嚢摘出術に関連した胆道損傷の原因としてしばしば報告されている ( Hunter 1991, Davidoff 1992, Rossi 1992, Voyles 1992, Hunter 1993 )。この熱損傷は胆道壊死や後期胆道狭窄の原因ともなりうる ( Park, 1992 )。

シェーマによる腹腔鏡下胆嚢摘出術における胆道損傷の原因:
A: Classic injury: 総肝管と胆嚢管の誤認
B: 総胆管側面へのクリップ
C: 粗暴な操作による胆嚢管の引き抜け
D: 総胆管のテンティング
E: Calot 三角剥離中の器具による総胆管損傷
F: 胆嚢剥離時における器具による総胆管損傷
G: 総胆管の熱損傷
H: 異常右肝管の損傷(1)
I: 異常右肝管の損傷(2)
flash
Figure 3.4

3.5. 術中胆道造影の役割


3.5.1. 同定
胆道損傷防止の意味での術中胆道造影の意義は未だ議論の途中である ( Davidoff, 1992; Barkun, 1993; Branum, 1993; Woods, 1994; Lorimer, 1995; Olsen, 1997; Adamsen, 1997; Wright, 1998 )。
術中胆道造影の最大の役割は胆道解剖を視覚的に明らかにすることにある。例えば、胆道造影で副胆管が確認できれば、術者はその存在を常に頭に置きながら胆嚢の剥離を進めることができる ( Airan, 1992; Woods, 1994 )。 胆道解剖が不明瞭な個所に遭遇した場合、胆道解剖の"road map" を得るために胆道造影は欠かせない検査である ( Berci, 1991; Soper, 1993 )。
Figure
Figure 3.5.1


術中胆道造影はクリッピングを行う際の総胆管のテンティングに関しても情報を与えてくれる ( Clavien, 1992 )。 術中胆道造影は、胆嚢管を確認し胆嚢管を切離するよりも前の段階で、なるべく手術の早い時期に施行するのが望ましい ( Hunter 1991; Davidoff, 1992; Hunter, 1993 )。
しかしながら術中胆道造影を施行して、正確にその情報を把握していたとしても、胆道損傷を完全に避けることはできない ( Branum, 1993 )。

一方、術中胆道造影を施行することで、胆道損傷の術中での同定率を上げることができるということに関しては、広くコンセンサスが得られている ( Berci, 1991; Deziel, 1993; Woods, 1994; Fletcher, 1995; Woods, 1995; Russel, 1996 )。

Woods ( Woods, 1994 ) は胆道損傷の術中同定率が、胆道造影を施行しなかった症例群では37%であったのに対し、胆道造影を施行した症例群では52% であったと報告している。この結果では統計的有為差は見られないが、術中胆道造影の結果の誤認は施行症例の16%にみられており、実際には更に高率で胆道損傷を同定できると思われる。
一方ベルギーでの調査では、有為差を認めている (32% vs 68%) ( Gigot, 1997 )。 造影剤の漏出、中枢側(肝臓側)の胆管・右後区域枝の造影が不十分などの情報が得られたときには胆道損傷の疑いが高い ( Soper, 1993; Woods, 1995 )。

3.5.2. 重傷度の低下
術中胆道造影はまた、胆道損傷の重症度を下げる役割も備えている ( Rantis, 1993; Traverso, 1994; Woods, 1994; Woods, 1995 )。
例えば、この時に胆嚢管だと認識して造影用に切開した管が総胆管であった場合、術中胆道造影が正確に完全に施行されれば、この段階で胆道損傷を確認でき、総胆管の完全切離にまでは至らないで済むのである ( Woods, 1995; Rantis, 1993 )。 Woodsらは術中胆道造影を正しく読影することによって、少なくとも16%の患者の誤認を確認したことを報告している ( Woods, 1995 )。実際、Woodsは術中胆道造影の施行により、全体の術合併症および術死亡率が低下することを示した ( Woods, 1994; Woods 1995 )。

しかし、術中胆道造影が正常であった場合でも、次のような場合には胆道損傷が起こりうる ( Branum 1993, Woods 1994, Woods 1995 ) :
(a) 胆道造影後の胆道損傷
(b) 胆道造影の結果の読影ミス
(c) 電気メスによる熱損傷(術後、局所の胆管壊死や胆道狭窄の原因となる)
(d) 胆道造影、胆嚢剥離(摘出)後の胆嚢管断端からの胆汁漏 ( Woods, 1994; Woods, 1995 )

3.5.3. 結論
未だ議論は続いているが、前述の報告では腹腔鏡下胆嚢摘出術が原因で引き起こされる胆道損傷を早い時期に同定し、それに対応するために術中胆道造影を施行することをルーチーンで施行することを支持している。胆道損傷の危険が増加する“learning curve”の途中の術者の場合には、特に重要であるといえるであろう ( Woods, 1994; Woods, 1995; Fletcher, 1999 )。

3.6. 胆道損傷を避けるための工夫

次に挙げるような事柄を踏まえた細心の注意を払った手術操作により、胆道損傷は回避できる。
-術野展開を完璧にする。特に肝門部に適度な緊張を掛ける。
そのために、
-肝臓の上方への牽引
-逆Trendelenburg 体位による重力を利用した、臓器の尾側への牽引
( Perissat 1989, Dubois 1990, Branum 1993, Hunter 1993 )。
肝門部のカメラの視野も重要である。肝門部の正面視像(ちょうど右季肋下切開の時のような視野)を得る事が重要であるが、そのために30°斜視鏡が有効なこともある ( Hunter, 1991; Horvarth, 1993 )。

Calot三角の正しい展開も極めて重要である。エキスパート ( Perissat, 1989; Dubois, 1990 ) は胆嚢のハルトマン嚢を外側に牽引することが、この部分の展開に重要であると強調している。そうすることで、胆嚢管が総胆管に対して直角になり、この部分の構造の区別がつきやすくなる。
フランス式では肝臓を頭側へ、胆嚢ハルトマン嚢は外側に牽引することでこの部分の視野の展開を行なう野に対し、アメリカ式では胆嚢低部を頭側右外側に牽引することで同時に肝臓も牽引する。ハルトマン嚢も外側に牽引を加えることで総胆管、胆嚢管へのアプローチが可能となる ( Hunter, 1993; Cox, 1994; Hunter, 1995 )。

Calot 三角の剥離操作の際に、この部分を覆う胆嚢間膜を腹側背側の両側から確認することも重要である。剥離操作は胆嚢頚部から始め、胆嚢管の胆嚢流入部を充分に明らかにしておく ( Soper, 1993 )。ハルトマン嚢の牽引を過剰に行なうことは、総胆管のテンティング、ひいてはクリップによる総胆管損傷につながるので、避けなくてはいけない ( Davidoff, 1992; Moosa, 1992; Branum, 1993; Horvarth, 1993; Ress, 1993 )。 胆嚢管とハルトマン嚢の間が充分に明らかになるまでは、Calot 三角内のいかなる構造物にもクリップをかけたり、切開・切離を行なってはいけない ( Hunter 1993 )。 Taniguchi ( Taniguchi, 1993 ) と Ido ( Ido, 1996 ) は胆嚢管と総胆管の合流部付近の "danger zone" に対して、Calot 三角内で胆嚢頚部に近い部分を "safety zone"と呼んでいる。

クリップをかける時、胆嚢管を切離する時には、必ず胆嚢管と総胆管の確認を行なわなくてはいけない ( Davidoff, 1992; Asbun, 1993; Branum, 1993; Ress, 1993 )。Calot三角の剥離操作においては電気メスの過剰な使用は避けなくてはいけない。Calot三角内の全ての索状構造物を明らかにして、その切離を行なう前に、透視を使った術中胆道造影を行なわなくてはいけない。そして最後に胆嚢壁寄りで胆嚢を胆嚢床より剥離していく ( Davidoff, 1992; Asbun, 1993; Hunter, 1993; Ress, 1993; Hunter, 1995 )。

そして最も重要なことは、解剖学的構造が充分に明らかにできない時には、躊躇せずに開腹へコンバートすることである。炎症による術困難、解剖学的変位、過剰な出血などの際に開腹へ移行することは、手術の失敗と考えるのではなく、むしろ患者の安全を考えた術者の正しい判断と評価すべきである。

胆道損傷の可能性が高く、すぐにでも開腹への移行を考慮しなくてはいけない所見を以下に挙げる:
  1. 術中の持続する胆汁漏
  2. "副" 胆管・動脈
  3. "巨大" ,"重複" 胆嚢管
  4. 胆道系解剖が同定困難
  5. 過剰な電気メスの使用
  6. 胆道造影による胆道損傷の疑い
  7. 胆嚢管切離断端からのコントロール困難な出血
  8. 胆嚢剥離の際の正しい剥離層の同定が不可能

3.7. 治療


3.7.1. 術中診断
術中に胆道損傷が疑われた場合には、その確認のために術中胆道造影を直ちに施行しなくてはいけない。推奨される外科治療指針は術者の経験によって大きく変わってくる ( Stewart, 1995 )。
Strasberg分類の class A ~ C 胆道損傷は、術中造影にて主胆道により肝左葉・右葉ともドレナージされていることが確認できれば、切離した副肝管にクリップを掛けることで治療できる可能性がある ( Wright, 1998 )。

総胆管側面の損傷 (Strasberg分類 class D)の場合には、 T-チューブ挿入同様、結節縫合による一期的縫合も行われる。
Strasberg分類 class Eの場合には、肝管分岐部より末梢の総胆管(総肝管)がどの程度残っているかによって、肝管空腸吻合もしくはHepp-Couinaud 手術 ( Hepp, 1956; Hepp, 1985 ) を行なうのが最善であるを行なうのが最善である ( Murr, 1999 )。胆管の正常粘膜が保たれてる場合には、胆管端々吻合を行なえることもある。その際には充分な血流に富んでいることと、吻合部に緊張がかからないことが重要である。

Woodsの報告では、胆道損傷の早期発見・修復は再手術の可能性を減少させ、それにより患者の合併症を減らす結果となっていた ( Woods, 1994; Woods, 1995 )。しかし、もし術者がこのような術式に不慣れである場合には、ドレーンを留置した後手術を終了し、しかるべき病院へと転送することが最善と思われる。

3.7.2. 術後の診断
術中に胆道損傷が発見でき、直ちに治療を行なうことが最善であることに異論を唱える外科医はいないであろうが、術後になって胆道損傷が明らかになった場合の治療に関しては、今のところ一定したコンセンサスは得られていない。時間を置いてからの一期的再建術が良好な成績を収めているにもかかわらず、内視鏡によるステント留置や術後早期の炎症の残っている時期の再手術を主張するものか少なからず存在する (Bismuth, World J Surg, in press)。
Figure
Figure 3.7.2


術後での診断の場合、再手術前の画像は経皮経肝的胆道造影やERCPにて得ることができる。正確な診断を下すことが重要で、すべての肝内胆管が造影されるようにしなくてはいけない。胆道再建に最も適したタイミングというものは、今のところはっきりとは確立されていない。

Murr ( Murr, 1999 ) は最近、胆道損傷診断後の治療におけるMayo Clinic policyなるものを発表している。それによると胆道の完全閉塞で胆汁漏出を認めない症例には、術後2~3週間経過し、胆管が充分に拡張してから再手術を施行し、胆汁漏出を認める患者では術後3~6ヶ月後の胆管が拡張し、炎症が収まった時期に修復術を施行することを勧めている。修復術の多くは左肝外肝管を利用した内瘻術であるHepp手術 ( Hepp, 1956; Hepp, 1985 ) が行なわている。

しかし、更に末梢側の胆道損傷の場合 (Class E1 、 E2の一部) や血流が保たれ、炎症のない胆管の場合には肝門部の剥離操作を行なわなくとも再建は可能と思われる ( Murr, 1999 )。 初回再建手術から数ヶ月後に再び狭窄を起こした患者には、経皮的胆道拡張術が適応となるであろう ( Lillemoe, 1997 )。
治療成績
これまでになされた結果の多くは、既に初回治療を受けたような患者を扱う3次搬送病院からの報告がほとんどであり、その結果が全ての成績を反映しているとはいいがたい ( Rantis, 1993; Solhein, 1995; Stewart, 1995; Russel, 1996; Lillemoe, 1997; Murr, 1999 )。
エキスパートによる胆道再建術のほとんどの短期成績は、80%〜95%と良好な結果が報告されている ( Davidoff, 1992; Moosa, 1992; Rossi, 1992; Asbun, 1993; Branum, 1993; Rantis, 1993; Ress, 1993; Roy, 1993; Soper, 1993; Woods, 1994; Tocchi, 1996; Lillemoe, 1997; Murr, 1999 )。しかし10年後、20年後の長期成績が出ないと正しい評価が出来ないことも事実である ( Mouret, 1991; Satava, 1992; Glerup, 1995; Federle, 1981 )。

Branumの報告によると、短期フォローアップにても38症例中5症例が再手術を要している ( Branum, 1993 )。
Stewartによると ( Stewart, 1995 ) 、治療成績を上げる要因として、次のことが挙げられている:
  1. 術中胆道造影
  2. 内視鏡的拡張術より手術的治療
  3. 手術手技(端々吻合よりもHepp-Couinaud手術)
  4. 術者の経験
実際、初回胆道再建を通常の外科医より受けた患者は、その手術に経験を積んだ外科医によって施行された再手術の場合よりも合併症が多いと報告されている。特に初回手術時に術中胆道造影が完全に施行されていない場合には、その頻度は上昇する。
十分な経験のない術者で、かつ術中胆道造影をしっかり施行しなかった場合、その治療はほぼ100%失敗に終わっている ( Stewart, 1995 )。

最後に、再手術後長期にわたる胆道狭窄の場合、胆管端々吻合術後にせよ肝管空腸吻合術後にせよ、経皮経肝胆道拡張術が有効である。Lillemoeによって、全症例の64%にその有効性が確認されている ( Lillemoe 1997 )。




1. イントロダクション

2. 開腹胆嚢摘出術

3. 腹腔鏡下胆嚢摘出術

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