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胃食道逆流症: 診断と治療





(from the conclusions of the Consensus Conference organized by the French National Society of Gastroenterology and the Belgian Royal Society of Gastroenterology, January 1999)

J Marescaux , MD , FRCS , Hôpitaux Universitaires de Strasbourg, St rasbourg, France




1. イントロダクション / 病態生理学

2. GERD の診断

3. GERD の重症度評価.治療目標

4. 内科的治療

5. 治療指針

6. 外科的治療

7. References


1. イントロダクション / 病態生理学

胃食道逆流症(Gastroesophageal reflux disease:以下GERDとする)は胃内容の一部が食道内に逆流することで発症する。臨床的には、この逆流現象により生じる自覚症状および(または)食道病変により特徴づけられる反復性の病態を指す。食道粘膜の障害は逆流性食道炎(消化性食道炎)として知られている。食道炎は狭窄、出血、潰瘍形成、そしてBarrett食道と呼ばれる下部食道粘膜の円柱上皮化を引き起こす事がある。自覚症状は食道の傷害程度と関係なく起こることもある。まれにではあるが、食道病変があっても無症状のこともある。
欧米ではその頻度に差はあるものの、成人の5〜45%が胸焼け症状を有する(月に1度程度が30〜45%、毎日自覚する者が5〜10%)。この調査には含まれない非典型的な症状を有する患者もいるので、実際にはこの数字より多いものと思われる。

しかしながらGERDに罹患している患者のほとんどが、病気として気にしないような些細な症状、たまにしか自覚しないような症状も経験しているのも事実である。GERD症状の発現頻度と年齢とはあまり関連がみられず、またこれといった原因も同定されていない。逆流現象による食道炎は全人口のおよそ2%に認められるといわれている。上部消化管内視鏡検査では最も頻繁に認められる病変で、胃潰瘍、十二指腸潰瘍よりも頻度が高い。GERDは時には慢性経過をたどる。5〜10年の追跡調査では、約2/3の患者が、持続的もしくは断続的な治療を必要とするような頑固な症状に悩まされている。

多くの要素がGERD症状と関連していることは確かだが、一般的には食道胃接合部に存在する解剖学的または機能的な胃食道逆流防止帯が弱くなることが原因とされる。この部分が弱くなることにより引き起こされる胃酸逆流による食道粘膜の傷害が、GERD症状と病変の発生に最も大きくかかわっている。実際に胃酸を抑制すること(これはGERDの治療によく使用される)により、ほとんどの症例で症状と病変の消失が認められる。このことからもGERDが胃酸に関連した病気であるということは間違いない。




1. イントロダクション / 病態生理学

2. GERD の診断

3. GERD の重症度評価.治療目標

4. 内科的治療

5. 治療指針

6. 外科的治療

7. References


2. GERDの診断

2.1. 身体所見

GERD診断の第一歩は現在の症状(典型的,非典型的)を正確に分析することと、
患者の病歴(年齢、リスクファクター)の把握から始まる。
a. 典型的な症状としては胸焼けがあり、上昇してくる胸骨の裏側の焼けるような感覚と胃酸の咽頭への逆流が特徴である。これらは90%の特異性があり、この症状があれば他の検査をしなくともGERDの診断が可能である。
b. 逆に非典型的な症状の場合は消化器症状(心窩部痛、吐き気、胃酸の咽頭への逆流)にせよ、非消化器症状(喉頭炎、慢性咳嗽、喘息、狭心症様胸痛)にせよ疾患特異性が低い。この場合には確定診断、除外診断(たとえば狭心痛の際の心疾患など)をするために更に検査が必要である。
c. 重度の臨床所見(体重減少、嚥下困難、消化管出血、貧血)がみられる場合、非常に重症のGERDや腫瘍などが考えられるので、消化器内視鏡検査は必須である。

2.2. 内視鏡検査とその所見

上部消化管内視鏡検査にて食道粘膜のびらん(逆流性食道炎)が認められれば、GERDの診断がつく。内視鏡的にこの所見がみられれば、その他の検査は不要となることもある。び慢性の発赤や組織の脆弱性などは診断上はあまり参考にならない。びらんや潰瘍形成のみが診断上有用といえる。
現在までに3種類の食道炎分類が使用されてきている:

2.2.1. Savary-Miller 分類 (1977)
Stage Ⅳはその他のStageとは異なる経過をたどるような病変を伴っている。
Stage I: 胃−食道境界部、あるいはそれ以上に限局した一カ所あるいはそれ以上の非融合性の発赤、白斑または表層びらんを伴った病変。
Stage II: 食道内面の全周性に及ばない程度の範囲で融合した、びらんや白斑を持つ粘膜病変。
Stage III: 食道粘膜が全周性にびらんと白斑を持つ病変で覆われ、一部潰瘍性変化を示すが、狭窄は伴わないもの。
Stage IV: 胃 — 食道境界部の潰瘍、それに伴う食道壁の線維化・食道狭窄、Barrett食道などの慢性食道粘膜病変。

2.2.2. Svary-Monnier分類(1989)
この分類は粘膜ヒダ、急性病変と慢性病変との区別を取り入れている。
また、Barrett食道をStage Ⅴとし、他のStageと区別している。
Stage I: 一条の線状、もしくは卵円形のびらん、白斑病変。
Stage II: 数条のびらん、白斑病変。融合することもあるが、全周性ではない。
Stage III: びらん、白斑病変が全周性に存在する。
Stage IV: 潰瘍、狭窄、Barrett食道などの慢性食道粘膜病変。これらの病変はStageⅠⅡⅢの病変と併存することもあるし、単独で存在することもある。
Stage V: StageⅠ〜Ⅳに併存もしくは単独で存在する円柱上皮化(スポット状、線状、全周 性)Barrett上皮。

2.2.3. Los Angeles 分類 (1994)
この分類は正常食道粘膜の消失の分布を基に、4段階に分類している。
Grade A: 1カ所以上の正常粘膜の消失。5mm以下の病変で、一条の粘膜ヒダ上にとどまる。
Grade B: 1カ所以上の正常粘膜の消失。5mm以下の病変で、一条の粘膜ヒダ上にとどまる。
Grade C: 少なくとも2条以上の粘膜ヒダにまたがって正常粘膜の消失をみるが、全周性ではない。
Grade D: 全周にわたって正常粘膜の消失を認める。
Figure
Figure
2.2.3. a
Figure
Figu
re 2.2.3. b
Figure
Figure
2.2.3. c

びらん性食道炎
びらん性食道炎
- Savary-Miller Stage I
- Savary-Monnier Stage II
- Los Angeles Grade A
- Savary-Miller Stage II
- Savary-Monnier Stage II
- Los Angeles Grade B

融合性、全周性の潰瘍性病変
潰瘍性、狭窄性病変
- Savary-Miller Stage III
- Savary-Monnier Stage III
- Los Angeles Grade D
- Savary-Miller Stage IV
- Savary-Monnier Stage IV
- Los Angeles Grade D

すじ状のBarrett食道
全周にわたるBarrett食道
- Savary-Miller Stage IV
- Savary-Monnier Stage V
- Savary-Miller Stage IV
- Savary-Monnier Stage V

食道病変に関しては今のところ世界的にコンセンサスを得ている分類というものはない。前記の3種類の分類に関しては軽度の食道炎(孤立性もしくは多発性の非全周性粘膜病変)、重度の食道炎(全周性の粘膜病変)、合併病変をもつ食道炎(狭窄、潰瘍、Barrett食道)を厳密に区別している。しかしながら食道炎は30〜50%の症例にしか認められないので、通常内視鏡検査だけでは診断がつけられない。

2.3. 診断基準とpHモニター

外来患者に対してもっともよく施行される24時間食道pHモニターは、非典型的な症状の患者、内視鏡的には異常の認められない患者に対して有効な検査である。この検査は胃酸分泌抑制の治療を中断してから(PPI:プロトンポンプインヒビターの場合1週間の休薬)行う必要があり、その目的は症状と胃酸逆流現象の相関関係を評価することにある。その感受性は70〜90%、特異性は85〜90%といわれている。この検査は食道炎や典型的なGERD症状を有する患者に対しては、診断的意義はあまりない(内科治療に抵抗性のGERD症状を持つ患者は例外)。胆汁性逆流性疾患はこの検査では診断はできない。

2.4. その他の検査

その他の検査は、GERDの診断上あまり意義がない。
  • 食道胃透視検査で診断をつけるのは不十分である。
  • 食道内圧検査は診断をつけるための検査とはいえない。
  • 胃酸分泌検査や血中ガストリン測定などはガストリノーマなどが疑われる特殊な場合以外は実用的な検査とはいえない。

2.5. 診断指針

われわれは次のような診断の進め方を推奨している
1. 典型的な症状を有するが、強い愁訴はない50才未満の患者:全身的ないろいろな検査を施行するよりも、まず内科的治療(内服治療)を最初に行う。これらの内科的治療に抵抗性、もしくは治療を中止するとすぐに再発を繰り返すような場合には、上部消化管内視鏡検査を施行する。
2. 典型的な症状に加え、強い愁訴、もしくは50才以上の患者:上部消化管内視鏡検査を施行する。
3. 非典型的症状もしくは非消化器症状を有する患者:上部消化管内視鏡検査を施行するが、食道炎の所見がない場合には食道pHモニターの検査を追加する。
Figure
Fig
u r e 2.5
50歳未満
50歳以上
典型的症状
典型的症状で、その症状が強いもの
非典型的症状

Table 2.5 : 身体所見および上部消化管内視鏡検査の適応(成人)
分類
特徴
施行すべき検査
典型的症状
- 胸焼け
- 胃酸の咽頭へのこみ上げ
内服治療に抵抗性でなければ内視鏡検査は不要
典型的症状
+強い愁訴、その他の
関連した身体所見
- 体重減少、嚥下困難、出血       、貧血
- 年齢50才以上
- 内服治療に抵抗性
- 治療中断により易再発性
上部消化管内視鏡検査
非典型的症状
- 心窩部痛
- 夜間咳嗽、喘息様発作
- 狭心症様発作
- 嗄声、咽頭灼熱感、耳痛
上部消化管内視鏡検査+(上記で食道炎の所見がなければ)食道pHモニター




1. イントロダクション / 病態生理学

2. GERD の診断

3. GERD の重症度評価.治療目標

4. 内科的治療

5. 治療指針

6. 外科的治療

7. References


3. GERDの重症度評価.治療目標

以前より、食道炎の程度がGERDの重症度および治療効果の評価として使われてきた。しかし、ほとんどの場合GERD は良性機能性疾患であり、それがすべて重度の病変に至っているわけではない。また、その機能異常が主にQOL(Quality Of Life)を下げる原因となる症状を生み出しているのである。 
症状の重症度はその強さと頻度で決まってくるが、そのことと食道炎の存在・重症度とは比例しないのである。

3.1. 症状とQOLに与える影響の評価

逆流症状とそれがQOLに与える悪影響に関しては既に実証されている。だとすれば、症状およびQOLがGERDの重症度・治療効果の判定のための重要な評価基準でなくてはいけないはずである。患者は統一規格で一定の評価を得られている質問用紙に、症状やQOLに関して答えていく。
D ocu me nt 3.1

3.2. 病状の自然経過と合併症の予測

GERDはしばしば慢性の経過をたどる。およそ患者の2/3が数年後の経過観察の後、継続的・非継続的治療を要する。それぞれの患者における症状の持続性を予測することは不可能である。ほとんどの場合、食道炎病変はそれ程ひどくはない事が多い。また、食道炎は自覚症状の程度とは関係がなく、経過中はほとんど悪化することはない。GERDの重症度はこれら食道病変では評価できないのである。中程度の食道炎を治すことに躍起になったり、その経過観察のために繰り返し内視鏡検査を行うことは勧められない。少数であるが、特に60 才以上の患者では重度の食道炎を起こすことがある。そのような重度の病変は、難治性・易再発
性・合併病変の発生を予測する因子にはなりうる。これらの病変の治癒過程を観察するために内視鏡検査を行うことは意味のあることであるし、施行すべき検査である。

GERDの2大合併病変といえば、消化性狭窄とBarrett食道である。
-消化性狭窄はまれ(約1%)である。
- ここで癌のハイリスク群でもあるBarrett食道について詳しく述べておく必要がある。
Barrett食道はGERDのために内視鏡検査を施行した患者の5から10%に認められ、食道下部の扁平上皮が、胃底部(胃)、噴門部(E-C junction)の円柱上皮化生または腸上皮化生(特殊型)を起こした状態である。
普通、食道下部にこの変化が少なくとも3cm以上おきているときにBarrett食道という診断が下される。ごく短い範囲のBarrett上皮というのは良く見られる現象である。腸上皮化生がみられるだけで食道癌(腺癌)のリスクは、通常より30〜40倍上昇する。悪性化までの過程は化生→異形成→癌という経過を示すと考えられている。腸上皮化生を伴ったBarret食道は内視鏡による十分な経過観察と同時に数カ所の生検を行う必要がある。Barret食道の診断がつけば外科的に確実な逆流予防手術を行うことが望ましい。その上に期待生存年数と高度異型もしくは癌への罹患率とのバランスがつり合う患者に対しては、毎年の経過観察が望ましい。( Falk 2002; Shaheen N and Ransohoff; 2002; Spechler, 2002 ; Incarbone et al ., 2002 ).

GERD治療の目標(内科的、外科的)
  • 症状の除去と、早期の日常生活への復帰(全ての患者に対して)
  • 食道病変の消失(重度もしくは合併病変を伴った食道炎の場合)
  • 再発予防(再燃を繰り返す患者や、重度もしくは合併病変を伴った食道炎の場合)




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3. GERD の重症度評価.治療目標

4. 内科的治療

5. 治療指針

6. 外科的治療

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4. 内科的治療

GERDに有効な治療薬にはいくつかの違った治療効果を持つものが存在し、その効果は今までにも多く報告されてきた。実際、治療薬の中には非常に有効なものもあるが、そのどれもが休薬による再発を防いだり、この疾患を根治することは不可能である

4.1. 生活習慣を変える

今まで一般的にいわれてきた多くの食事や姿勢・体型に関する改善方法の中で、唯一いくらかの効果が証明されているのは、就寝時は上半身をいくらか起こした状態にすることだけである。その他の方法(禁煙、禁酒、減量、低脂肪食など)は患者の健康を保つ上での一般的なアドバイスでありGERDに対して直接の効果は持っていない。逆流の原因となるもの(薬理学的懸案から)として挙げられていた薬品は、実際にはGERDに対してほとんど影響を与えない。よって、もし必要であればその種の薬を使うことはいっこうに構わない。例えば気管支拡張剤(テオフィリン、β2刺激剤)や経口避妊薬などが挙げられる

4.2. トピックス

制酸剤と粘膜保護剤の組み合わせが症状の緩和に有効であるとする報告がいくつかみられる。軽症のGERD(重度の食道炎病変を伴わず、しかも時々症状がでる程度)および初期治療によく反応するタイプのGERDに限られているが、これらの治療薬が広く使われていることがすなわち、その効果を証明していることになる。しかし、これらの治療薬には根治性や食道炎病変形成の予防という効果はない。制酸剤は他の薬品との相互作用の可能性があるので、単独で内服したほうが良い。

4.3. H2ブロッカー

H2ブロッカーによる初期治療により、食道炎病変やそれに伴う症状が明らかに軽減することがしばしば認められる。しかしプラセボ投与と比較した場合、症状軽減の効果は普通20%以下、病変の治癒率はおよそ50%程度である。重度の食道炎病変、合併病変を症例では期待する効果が得られないことが多い。H2ブロッカーはGERDにおける症状軽減や食道病変(重症は除く)の改善には最も適した薬といえる。副作用が少ない点から、cimetidineよりもranitidine、famotidin、nizatidineなどが好んで使われる。一日の使用量は胃・十二指腸潰瘍の時と同量(e.g. 300mg/日 ラニチジン)であるが、2回に分けて服用する。4〜6週間続ける必要がある。

低量H2ブロッカー(200mg シメチジン、75mgラニチジン、10mgファモチジン)の逆流現象における効果についてもプラセボとの比較で報告されている。即効性H2ブロッカー(溶解錠、舌下錠、チュアブル錠)はGERD症状の早期軽減によく適しているようである。しかしながらGERD治療におけるH2ブロッカーの役割は、その安全性にもかかわらず、PPI(プロトンポンプインヒビター)の出現により徐々に低くなってきているといえる。ここ数年試みられている新たな内服方法(患者自身が必要なときに内服する)は、ユニークな方法であり、今後検討していく価値がありそうだ。

4.4. プロトンポンプインヒビター(PPI)

PPIのGERD における症状、食道炎病変(たとえ重度であっても)に対する効果は、他のどの治療薬よりも優れているといえる( Johanson, et al ., 2002 )。
以前報告された多変量解析を使った大規模なトライアルでは、4〜8週間の投与で84%の食道病変治癒率を示した。これはH2ブロッカーの58%、プラセボの28%という数字をはるかに凌ぐ効果である。同様の効果が症状消失に関しても認められた。また、維持療法に関しても同様の結果が報告されている。特筆すべきは、重度食道炎病変に対し、特にこの効果が優れている点である。標準投与量であれば、現在入手可能なPPIの間で臨床的に明らかな効果の違いは認められない。消化性の狭窄に対し、PPIはその症状の緩和、粘膜病変の修復、そして内視鏡的拡張術を必要とする頻度の減少において有効性が証明されている。Barrett食道病変に対してはその有効性は認められていないが、内視鏡的粘膜抜去術との併用により化生粘膜、異型粘膜に対する有用性が検討されている。

非典型的症状のGERDに対するさまざまな治療法の評価のためには、さらに研究
を重ねる必要がある。その一方で、診断の確定した、もしくはその疑いが強い
GERD に対しては、通量または倍量の PPI の4〜8週間投与が推奨される。
最近の研究ではPPI投与量の減量、投与間隔の延長が模索されてきている。半量投与に関しては、短期集中療法、維持療法のどちらおいても中等度GERD(重度の食道炎を伴わないもの)に対する症状改善効果は証明されている。確定したデータではないが、lanzoprazole半量投与と標準投与量では効果は同じであるという報告もある。一方で、投与間隔の延長(隔日投与もしくは週三回投与)は推奨できない。
いずれにしても、PPIは薬物耐量が広く、これといった副作用もない。

4.5. 無酸症とHelicobacter pylory感染の影響

長期にわたる酸分泌抑制により、小腸細菌叢に乱れを生じ感染性の下痢やビタミンB12の吸収障害をもたらす可能性がある。これらの副作用は臨床的には些細なもので、これによって治療や調査研究を中断するようなものではない。
また、胃底部におけるクロム親和性様細胞の過形成(Enterochromaffin-like cellular hyperplasia)や高ガストリン血症を引き起こす可能性もある。現在、10年経過した追跡調査では臨床的には目立った症状、障害は認められていない。そのことから考えると、長期PPI投与患者に定期的・慣習的な血中ガストリン濃度測定や胃粘膜の病理組織学的検査は必要ないといえる。
Helicobacter pyloriとGERDの病態生理や萎縮性胃炎との関連はいまだはっきりとしていない。一方でHelicobacter pylori 除菌療法はPPI治療の効果を減少する可能性が認められている。長期制酸治療患者に対する系統的な菌同定・除菌に関しては、それを正当化する十分な証拠は認められてない。




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3. GERD の重症度評価.治療目標

4. 内科的治療

5. 治療指針

6. 外科的治療

7. References


5. 治療指針

5.1. 自己内服

胸焼けに悩む患者の3分の2近くが病院には行かず、その多くが市販薬を自分の判断で内服している。この治療は、低量H2ブロッカーのように局所作用と即効性という点に基づいて行われ、自覚症状の緩和に有効のようであるが、その臨床的な有効性はさらに研究・調査の必要がある。
最近のこれら内服薬の使用状況からすれば、自己内服による危険性(副作用、他の薬との相互作用、腫瘍性病変の発見の遅れの可能性など)は非常に低いといえそうだ。医者側からすれば、これらの自己内服を完全に容認もしなければ非難もしない。しかし市販薬に添付されている注意事項には、患者にとって有益かつ必要不可欠な情報を盛り込む必要があるし、医師の診察が必要となるような症状に対しては特別な注意が払われるべきである。これら注意事項の作成や認定には、医者、薬剤師および利用者の代表が関わって決定すべきである

5.2. 初期治療指針

現在までのところ、GERD患者に対する理想的な初期治療に関して、完全に、明確に、そして正確に評価した報告はない。治療の進め方には、まず最少量、最少効果の薬剤から始めて、徐々に最適なラインまで持っていくアプローチと、その逆にまず最大の効果をねらった量から始めて徐々に減量していくアプローチの方法がある。そのどちらも、必要最低限の治療効果をもたらす分量を探るという点では共通しているが、その必要最低限の量を過大評価または過小評価する可能性があるという点で、必ずしも理想的とはいえない。
最近の科学、医療経済情報からみて、次のような治療指針が実際の臨床に柔軟に対応し、かつGERDに対して効果があるものと思われる( Ofman, 2002 )。

a. 時々生じる典型的な逆流症状で重度の臨床症状を伴わない場合制酸剤(酸中和
剤)、アルギン酸製剤、もしくは低量H2ブロッカーを必要に応じて使用。
この3種類の薬は症状緩和にほぼ同等の効果を示す。姿勢や食事指導なども加えたほうがよい。

b. 繰り返す典型的症状(少なくとも週に1度は自覚する)で、重度の臨床症状は伴わない。
50歳未満の患者: 4週間にわたる半量 PPI投与、もしくはH2ブロッカーの通常量投与、(もし禁忌でなければ)cisaprideの投与。十分な効果が得られれば、治療は4週間で終了する。もし効果が不十分であったり、早期に症状が再発するようであれば上部消化管内視鏡検査を施行した方がよい。

c. 内視鏡検査は50歳以上の患者、重度の臨床症状を訴える患者にも施行した方がよい。重度の食道炎がない患者には4週間の酸分泌抑制の働きの薬剤(PPIが最良)を行う。前記の治療が奏功しないために内視鏡を施行した患者の場合、通常量のPPIを投与する。重度の食道炎を呈する患者に対しては通常量のPPIを8週間投与し、その後内視鏡で病変を確認する。治癒傾向が見られない、もしくは自覚症状が改善しない場合は投与量の増量を考慮する必要がある。

d. 消化器症状以外の症状がある場合でGERDの確定診断が付いた場合、もしくは非常に疑われ場合、通常量または倍 量のPPIを4〜8週間投与する。

5.3. 合併病変がない場合の長期の治療指針

a. 重度の食道炎や合併症を呈する症例以外は自覚症状の消失とともに治療を中断すべきである。
b. 症状が慢性的に度々再発するような場合(食道炎病変の有無に関わらず)、症状が改善した最初の治療を断続的に行ってもよい。
治療終了後にもかかわらず早期に繰り返し症状が再発する場合、患者のQOL(Quality of life)に対する影響は深刻で、個々の症例にあった量のPPI投与による維持療法が必要となる。治療後の内視鏡検査は症状が安定していれば必ずしも必要ではない。重度の食道炎を伴う患者に対しては、初期に行った治療を継続していくべきである。
このような維持療法が必要となった際には、内科的治療(内服治療)を続けるか、手術に踏み 切るかの決定を患者自身にも考えてもらう必要がある。

5.4. 合併病変の治療

消化性狭窄
消化性狭窄には通常量のPPI投与が必要である。嚥下困難の際には内視鏡的拡張術がこれに加えられる。この治療で改善がみられない場合、PPIの投与量を増量する必要がある。治療は効果の見られた投与量で持続的に行う。PPIの継続投与にもかかわらず、30〜50%の症例で1年後のfollow-upでは内視鏡による再拡張術が必要となっている。ブジーによる拡張術とバルーンダイレイターによる拡張術では、どちらも賛否両論でいまだ議論の途中である。さらなる調査・研究により、どちらの方が有用性があるかを確かめていく必要がある。
内科的治療が奏功しない場合には外科的手術治療を考慮しなくてはいけない。残りのケースでは、内科的治療を続けるか、外科的治療を行うかを合併症がないGERDの診断基準で議論する必要がある。

Barrett食道
PPIによる内科的治療は食道炎に対する治療同様、その症状の改善に於いても有効である。PPIの増量投与が必要となることもある。逆に症状のない症例では治療を必要としない。
長期にわたる酸分泌抑制治療でも外科的手術治療でもBarrett食道を完全に消退させたり、異形成や癌化への進行を予防することはできない。継続的な内視鏡検査や病理組織学的検査による追跡が必要である。これはGERDに対する外科的治療を行った場合にもいえる ( Csendes et al ., 2002 )。
粘膜切除術、粘膜抜去術は、特定の施設に於いて臨床試験を行っていく必要がある。これらの治療は癌化の危険性が非常に高い(異形成)患者に対して適応とされる。中間報告では切除部位において再扁平上皮化が認められることが報告されているが、癌化への危険性減少への効果は未だ議論の余地のあるところである。




1. イントロダクション / 病態生理学

2. GERD の診断

3. GERD の重症度評価.治療目標

4. 内科的治療

5. 治療指針

6. 外科的治療

7. References


6. 外科的治療

外科的治療の目的は逆流防止機構の再構築にある。外科的治療のみがGERDの自然経過を変えることのできる唯一の治療法である。腹腔鏡手術の出現により、その治療法は変わってきているが、手術手技上の原則は何ら変わりはない。つまり食道裂孔ヘルニアの修正と胃底部を使用した食道遠位端における逆流防止機構の再構築にある。

6.1. 術前評価

術前準備には2つの目的がある:それは逆流症の状態の把握と手術禁忌を除外することである。充分な確証がないことと、エキスパートの間でもそれぞれ意見の違い(学会、委員会、臨床上実用的かつ有用なガイドラインにおいても、それぞれの結果に矛盾があったり、見解の統一が図れていない)があるために、全世界で共通に推奨される方法というものは存在しない。しかし、一般には下記のようなものが推奨されている。
  • 上部消化管内視鏡検査 診断上必要
  • pHモニター:食道病変がない場合には必須
  • 食道内圧検査:次のような理由から術前検査として行われるのが一般的である。
    • GERDにおける手術禁忌となる隠れた食道運動の異常(アカラシア、強皮症など)を見逃さないようにするため
    • 術後の経過観察のための比較対照として
    • 併存する重症の食道運動障害を同定する(検査の結果が実際にはどの    程度臨床的意義があるかは議論のあるところだが)

食道内圧検査
検査の実際:
  • 6時間前からの絶食
  • 右側臥位
  • 鼻腔内の局所麻酔以外は前投薬はなし
  • 多くの薬品が食道運動に影響を与える。これらの薬は少なくとも検査12時間前には中止しておくこと

Table 6.1: 食道内圧検査に影響を与える薬品
分類

- ニトロ製剤
- Isordil®, Imdur® / Ismo® / Monoket®
- カルシウム拮抗剤
- Adalat®, Cardene®, Isoptin®
- 抗コリン剤
- atropine
- 腸管運動促進剤
- Propulsid®, Reglan®, erythromycin
- 向精神薬・抗不安薬
- Benzodiazepenes, barbiturates, antidepressants, neuroleptics
- その他
- theophylline, adrenergic agonists and antagonists, progesterone, opiates

食道内圧検査
内圧検査は次のようなことを評価する:
  • 下部食道括約筋 (LES)
  • 中部食道
  • 上部食道括約筋(UES)

しかし内圧検査にも下記のような限界がある:
  • 患者の術後の嚥下困難を予測することは不可能
  • 結果によって術式に影響を与えることはない(全周性・非全周性ラップの選択)

6.2. 手術手技および結果

最近の結果ではいくつかのfundoplicationの有用性が証明されており、それらがGERDに対する術式として選択されている。しかし、ラップ形成の方法で、全周性、非全周性どちらが優れているかについては十分な結論が出ていない。いくつかの報告にあるように、全周性ラップの良好な長期成績は、非全周性ラップの術後合併症の少なさに勝るとも劣らない長所である。まだ十分な科学的根拠がなく、しかも長期成績が出ていないにもかかわらず、腹腔鏡下fundoplicationは、特別な場合のGERDを除き、盛んに行われるようになっている。いくつかのプロスペクティブ・ランダマイズスタディーにより、開腹手術とほぼ同等の手術効果に加え、腹壁創の疼痛軽減や入院日数の減少が報告されている。

6.3. 手術適応

SAGES ガイドライン( http://www.sages.org/sg_pub22.html , revised in June 2001)

外科的治療は以下の文章のいずれかに当てはまるGERD患者に対し考慮される:
a. 内服治療の効果がない患者
b. 内科治療が奏功していているが、外科治療を希望する患者(年齢、治療に費やす時間、継続してかかる治療費(療薬代)などの理由で)
c. 合併病変のあるGERD(例えば、Barrett食道、狭窄、Grade 3もしくは4の食道炎)
d. “非典型症状”を伴う患者(喘息症状、嗄声、咳、胸痛、誤嚥)で24時間pHモニターで逆流が確認された患者

Consensus conference of the European Association for Endoscopic Surgery(EAES)における見解(1997)
胃酸分泌抑制治療が奏功した後でも、噴門部の機能不全・胃腸管蠕動不全・大きな食道裂孔ヘルニアなどが原因で起こる食物の咽頭へのこみ上げや、心窩部痛や胸部圧迫感の症状が再発することはありうる。外科的治療を考える場合、胸焼けと食物のこみ上げとの症状の違いは重要である(胸焼け症状の方が内科的治療に反応しやすい傾向がある)。そのようなことから外科治療の適応は次のような事項に基づき決められる。
  • 内科的治療が有効であるが、その治療を継続できない患者。内科治療を継続できない理由として、患者の好み、拒否、QOLの低下、薬物依存および副作用が考えられる。
  • 最新の正しい治療を行っているにも関わらず、治療抵抗性もしくは易再発性の食道炎病変があり、同時に症状も伴うもの。
  • 治療抵抗性の食物のこみ上げ
  • 合併病変の存在:潰瘍形成、狭窄、Barrett食道の存在などは手術適応決定にいくらか関わってくる(Barrett食道の進展を変える効果を示すような、内科的、外科的治療は存在しない)

注:PPIによる胃酸分泌抑制治療に全く反応しないような患者は、外科治療のあまりいい対象ではない。このようなケースには、注意深く他の疾患を検索する必要がある。逆に、胃酸分泌治療によく反応する患者は、外科治療のよい対象といえる。

著者注:
SAGESガイドラインの“c”とEAESガイドラインの最終項目とは矛盾しているようであるが、GERDに対する外科的治療の適応として議論中の問題である。




1. イントロダクション / 病態生理学

2. GERD の診断

3. GERD の重症度評価.治療目標

4. 内科的治療

5. 治療指針

6. 外科的治療

7. References


7. References

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