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胃食道逆流症:逆流防止手術 術後管理





J Marescaux, MD, FRCS, European Institute of Tele-Surgery, Hô pitaux Universitaires de Strasbourg, Strasbourg, France




術後疼痛対策

早期合併症

手術失敗例

手術治療無効例


1. 術後疼痛対策

目標:
  • 疼痛が出現する前に対応する
  • 吐気、嘔吐の予防(痛みの原因を作ることになる。また、手術操作部分にも悪影を与えることになる)
-> Droperidol (Inapsine®) を制吐剤としての使用量で使用

注:dose/kgの記載がない場合は70kg健常人を対象にした量である

  1. ketamineを鎮痛剤としての量( 0.5mg/kg, KETALAR® )でNMDA受容体に対する拮抗剤として麻酔導入時に使用する。
(注:この程度の量であれば、精神に異常をきたすような効果は認められない)
  1. 手術中の十分な筋弛緩と除痛。
   Droperidol(DROLEPTAN®) 1mg 注
  1. 非オピオイド系鎮痛剤を麻酔終了約30分 に使用:
    • NSAID(e.g. Ketoprofen, 50〜100mg)(この程度の量であれば副作用、特に凝固能に関しては問題ない)
    • paracetamol(acetaminophen)座薬1gもしくは経口2gを使用する。
  2. Tramadol hydrochlorideを使用(術後疼痛対策としては、初回量100mg、その後最初の1時間は50mgを10〜20分毎に使用。必要に応じて最初の1時間に最高250mg(初回量を含む)まで使用可能。その後は4〜6時間毎に50〜100mgを1日に合計600mgを限度に使用する)Tramadol hydrochloride 100mgあたりDroperidol 0.5mgを併用すれば、吐き気の予防になる。
  3. それでも疼痛が生じる場合には、回復室にてmorphine(通常morphine 2~3mgを5〜10分ごとに、疼痛スケールが3以下になるまで使用する)の点滴を行う:
    • 副作用として予想される吐き気や嘔吐には、あらかじめDroperidolをmorphineとともに使用する(morphine 10mgに対しDroperidol 0.5mg)。
    • PCA(Patient Controlled Analgesia: 患者管理鎮痛法)はほとんど使用しない。もし使用する場合には、Droperidolを上記の量に従いPCAリザーバーに混注する。
  4. 経口水分摂取が再開になり、かつ吐き気、嘔吐がなければ、水溶Paracetamol使用する:1gを4〜6時間毎
  5. NSAIDs (non‐steroidal anti‐inflammatory drug:非ステロイド系消炎鎮痛剤)を定期的に継続して使用する(eg Ketoprofen 50mg 8時間毎経口投与)

この除痛プロトコールはわれわれの病棟で使用し、有効であったものである。
腹腔鏡下手術後に特徴的な肩の痛みに関しては今のところ有効な手段はない(現在研究中)。




術後疼痛対策

早期合併症

手術失敗例

手術治療無効例


2. 早期合併症

全周性ラップ形成術における術後死亡率は非常に低い。報告者によっては0の場合もしばしばある。非特異的な術後合併症率は12〜16%である(胸腹壁や呼吸器合併症、血栓症)

Table 2 (Siewert and Stein, 1996)
報告者(年度)
症例数
術後合併症率
術死亡率
DeMeester et al. (1985)
100
13%
0%
Shirazi et al. (1987)
150
15%
0%
Mc Intyre et al. (1990)
117
14%
0%
O ’ Hanrahan (1990)
125
-
0%
Grande et al. (1994)
160
16%
2%
Peracchia et al. (1994)
102
-
0%
Munich TU (1996)
173
12%
0%
症例数100例以上で、長期成績のでているもの
Figure
Fig
ure 2

2.1. 胸腔内への逸脱

  • 頻度:
約10%

  • どんな時疑うか :
激しい胸痛、激しい吐き気、摂食困難

  • 機序:
    • 脚の締めが不充分
    • 気づかれなかった左気胸
    • 広範囲の食道周辺および縦郭内の剥離

  • 対応策:
    • 胸部単純レントゲン写真による胸郭内への胃迷入の診断
    • 緊急再手術により形成噴門を腹腔内に戻し、脚を縫合、ラップを脚に縫合固定する。

Figure
Figur
e 2.1

2.2. 嚥下困難

  • 頻度:
早期の一過性嚥下困難は40〜70%に認められる。

  • 機序:
胃食道接合部の術後浮腫および(または)一時的な消化管運動異常によるものと考えられている。

  • 対応策:
    • 経過観察
    • 患者に対して症状に合った食事の必要性を術前に指導しておく。

Figure
F
igure 2.2

2.3. 胃脱神経症候群

  • どんな時疑うか:
腹部膨満、胃内容停滞、下痢

  • 機序:
迷走神経の障害(損傷、麻痺)が原因と考えられている。

  • 対応策:
予防法:2本の迷走神経幹を同定、温存する。




術後疼痛対策

早期合併症

手術失敗例

手術治療無効例


3. 手術失敗例

熟練した術者が行えば、全周性ラップ形成により85〜95%の患者においてGERD症状に改善がみられる(20年follow-upにて)。
次のような場合、ラップ形成は失敗であったといえる:
  • 持続する手術に伴う合併症状によりQOLに支障をきたすもの(嚥下困難 (a)、腹部膨満 (gas bloat syndrom)(b)、下痢(c): 4〜15%)
  • GERD症状の持続もしくは再燃

Table 3:腹腔鏡下fundoplicationの成功率(長期経過観察群)
報告者 (年度)
症例数
成功率(逆流コ
ントロール可)
術後長期合併症
DeMeester et al. (1985)
100
91%
13%
Shirazi et al. (1987)
150
95%
4.6%
Mc Intyre et al. (1990)
117
86%
12.8%
O ’ Hanrahan (1990)
125
90%
15.2%
Grande et al. (1994)
160
92%
9%
Peracchia et al. (1994)
102
90%
7%
Munich TU (1996)
173
91%
8%
症例数100例以上で、長期成績のでているもの

3.1. 持続性の嚥下困難


3.1.1. 手術失敗例:持続性の嚥下困難
  • 頻度:
術後6〜30ヶ月のフォローアップ期間における、嚥下困難の発生率は3%〜12%と報告にばらつきがある。

Table 3.1.1:腹腔鏡下fundoplicationの成績(短期経過観察)
報告者/年
経過観察期間(月)
嚥下困難(%)
Halleback (1994)
(3-9)
7%
Hinder (1994)
12
6%
Pitcher (1994)
7.7
7%
Swanstrom (1994)
13
5%
Anvari (1995)
6
4.7%
Dallemagne (1995)
16.2
12%
Fontaumard (1995)
6.2
7.4%
Patti (1995)
12
7%
Gotley (1996)
12
9%
Hunter (1996)
17
3%
Legrand (1996)
23
6.3%
Watson (1996)
12
11%
Wu (1996)
17
4%
Coster (1997)
22
6%

3.1.2. 手術失敗例:持続性の嚥下困難
  • 機序:
消化性狭窄(もともと存在していたもの)

  • 対応策:
拡張術

Figure
Figu
re 3.1.a

3.1.3. 手術非奏効例:持続性の嚥下困難
  • Mechanism:
長すぎるラップ部分

  • 対応策:
    • まず内視鏡的拡張術を試みる。50%以上の患者で有効
    • 拡張術を3回試みても改善しない場合、再手術

嚥下困難による再手術に際しては柔軟な手術方針が求められる。つまり、嚥下困難がラップの絞め過ぎによるものなのか、食道裂孔の絞め過ぎによるものかによって方針が違ってくる。まず食道裂孔の術野を展開し、食道前面と食道裂孔の間を剥離しスペースを作る。その後大きめのブジー(52Fr)で食道胃接合部を通過させる。もしこのとき抵抗がある、もしくは裂孔部周辺がきつく感じるためにブジーが食道裂孔を通過できないときには、裂孔部の狭窄が疑われる。この場合には裂孔部腹側を剥離し、食道周辺にさらにスペースを作ることで、すぐに改善する。もし裂孔部が十分にゆるい場合には、ラップを縫合したラインに沿って切離する(腹腔鏡用自動縫合器を使用)必要がある:切離した部分をもう少し背側にずらし、背側よりの非全周性ラップ形成のような形で、再度縫合固定する。
Figure
Figure 3.1.b


3.1.4. 手術失敗例:持続性の嚥下困難
  • 機序:
ラップの絞めすぎ

  • 対応策:
    • まず内視鏡的拡張術を試みる。50%以上の患者で有効
    • 拡張術を3回試みても改善しない場合、再手術
Figure
Figure 3.1.c


3.1.5. 手術失敗例:持続性の嚥下困難
  • 機序:
食道裂孔部の絞めすぎ

  • 対応策:
    • まず内視鏡的拡張術を試みる。50%以上の患者で有効
    • 拡張術を3回試みても改善しない場合、再手術
Figure
Figure 3.1.d


3.1.6. 手術失敗例:持続性の嚥下困難
  • 機序:
Slipped Nissen

  • 対応策:
    • 拡張術はほとんど効果が見込めない
    • 再手術(更に広範囲に食道を剥離し、十分にゆるいNissen-floppy Nissen-を再形成する)
Figure
Figure
3.1.e

3.1.7. 手術失敗例:持続性の嚥下困難
  • 機序:
形成ラップが部分的(もしくは完全)に縦郭内へ引き込まれる

  • 対応策:
再手術(早期の傍食道ヘルニアと同じ術式)
Figure
Fi
gure 3.1.f

3.1.8. 手術失敗例:持続性の嚥下困難
  • 機序:
術前に診断されなかったアカラシアの存在

  • 対応策:
    • 拡張術
    • 改善しない場合:Heller myotomy (ヘラー筋層切開術)
Figure
Figu
re 3.1.g

3.2. Gas bloat syndrome


3.2.1. 手術失敗例 : gas bloat syndrome
Woodwardらは1971年に逆流防止手術を受けた患者の中に腹部不快感を訴える患者がいることを報告し、gas bloat syndromeと呼んだ。この症候群は腹部膨満感、胃膨満感、食事開始早期の満腹感、増強する鼓腸などの症状を呈する。これらの症状自体は身体に悪影響を与えない。そのためこれらの症状は些細な症状ととらえられがちだが、逆流防止手術を受けた患者が不満を感じる原因の一つとなっている。その頻度は1〜28%と報告されている。

Table 3.2.1:腹腔鏡下fundplicationの手術成績(短期経過観察例)
報告者/年
症例
経過観察期間 (月)
Gas bloat syndrome
Halleback (1994)
41 (68%)
(3-9)
28%
Hinder (1994)
100 (50%)
12
13%
Pitcher (1994)
70 (100%)
7.7
1%
Swanstrom (1994)
82 (100%)
13
4%
Anvari (1995)
85 (50%)
6
2.4%
Dallemagne (1995)
126 (34%)
16.2
4.8%
Fontaumard (1995)
117 (79%)
6.2
2%
Patti, (1995)
68 (100%)
12
4%
Hunter (1996)
126 (42%)
17
7%
Legrand (1996)
301 (97%)
23
6.9%
Wu (1996)
103 (98%)
17
25%

3.3. 下痢


3.3.1. 手術失敗例:下痢
  • 頻度:
1〜7%の頻度で認められる

  • 機序:
下痢は恐らく迷走神経の損傷、もしくは噴門形成の効果で胃内容排出時間が早くなったことが原因と考えられている。一般に摂食後に発症し、ちょうどダンピング症候群と似ている。

  • 対応策:
普通患者はこの症状をひどく気にすることはない。
特に治療は必要としない。




術後疼痛対策

早期合併症

手術失敗例

手術治療無効例


4. 手術治療無効例

手術治療が術前症状に対して無効であることはほとんどない。
手術治療が術前症状に対して無効であることはほとんどない。
胸焼け症状は4週間後には99%の症例で、2年後でも90%以上の症例で消失している。GERD症状が再燃した時には、形成したラップ部分の崩壊、消失がしばしば考えられる。
次の2つの治療的立場が考えられる:
  • PPI長期投与を再開する
  • 再手術。しかし、手術は複雑となるため十分に検討をする必要がある。
再手術のためには、食道裂孔に到達する方法として、経腹腔的、および経胸腔的の2つの方法を考えておく必要がある。
理論上は前回手術とは別の経路から到達するのが常套手段といえるが、実際には術者が最も慣れている経路を選択することが多い。いずれにしても、再手術における到達経路に関しては柔軟に対応する必要がある。

再手術例に対しても、全周性ラップが好まれている(Rieger, N.A. et al. Br J Surg 1994;81:1159-61)
幽門側胃切除術+Roux-en-Y再建はラップ再形成が不可能な場合または3度目以上の再手術の時のみ選択するようにする。