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鼠径ヘルニア手術における術中および術後合併症




D Mutter, MD, PhD , Hô pitaux Universitaires de Strasbourg, Strasbourg, France






1. イントロダクション

合併症と再発率は鼠径ヘルニア修復術の成否や有効性を評価する判断基準として用いられる。文献的検討では患者数は不均一で術式の標準化がなされていないことがわかる。時に経過観察期間は短く、外科医は多くの患者の術後経過をfollow-upできていないことがある。患者は術後最低5年間、再発の有無について経過観察されるべきである。





2. 術中合併症

術中合併症は稀であり、特定の術式に関するものではない。

合併症は大規模な検討(多施設検討やmeta-analyses)により分類できるもので、通常、臨床例では合併症が起こることは稀である。下に多数例の検討から得られた合併症の頻度を示した。手術手技に起因する主な術中合併症( Johansson et al. , 1999 : 613 症例,うち604例は1年間の経過観察が行われた)。
合併症
古典的アプローチ
前方アプローチに
よるメッシュリペア
腹腔鏡
出血
0.5%
1%
神経障害
0.5%
膀胱損傷
1%

2.1. 出血

出血は大血管の損傷(下大静脈損傷 [ [ Goodwin and Traverso, 1995 ] )や静脈系や動脈系の小血管の損傷によって起こる。

2.2. 閉鎖動静脈の損傷


2.2.1. メカニズム
閉鎖動静脈の損傷は、腹腔鏡もしくは開腹手術で靭帯内側部の上部辺縁を剥離している際に起こる。ヘルニア修復に際しての縫合やステープラーを用いた際に切離されることがある。

2.2.2. 結果
これらの損傷は術中出血、さらに陰嚢部や大腿部に広がった結果大きな血腫を形成する。

2.2.3. 処置
血管を損傷した際はこれを結紮しなければならない。これらの血管は下腹壁動静脈から分岐したり大腿動静脈の近くを走行するが、非常に短く、その処理はしばしば非常に困難となる。腹腔鏡下の手術では、バイポーラーによる凝固により出血のコントロールを行うことができる。

2.3. 大腿動静脈損傷


2.3.1. メカニズム
大腿および腸骨動静脈の損傷は剥離の困難な症例、特に再発ヘルニア症例などにおいて起こる。また、腹腔鏡下の手技で、気腹針やトロッカーの挿入を盲目的および侵襲的に行うことが原因となることもある。

2.3.2. 結果
小さな血管損傷であれば圧迫にて自然に止血が可能である。しかし、それらは重大な術中出血や術後後腹膜血腫の原因にもなり得る。 また、不用意な止血縫合を行った場合は、重大な障害をもたらすことがあり、動静脈の結紮を行った例では急性虚血障害を引き起こす。

2.3.3. 処置
血管の損傷は圧迫することによりチェックする事ができる。血管の損傷はすべて処置する必要がある。修復の必要がある場合には、血管の処理はその部の上下で行わなければならない。血管損傷部のパッチや血管置換も有効である。腹腔鏡のアプローチでは“小開腹法” を用いてこれらの損傷を避けることが可能である。

2.4. 神経損傷


2.4.1. メカニズム
神経損傷は以下の4つの原因による起こる
  • 凝固による神経損傷や障害
  • 剥離操作中の神経の切断
  • 壁の縫合やメッシュ固定の際の結紮
  • ステープルの使用による穿刺

神経に関わる合併症はメッシュを用いたtension-free techniqueに比べ、古典的術式においてやや頻度が高い: 4.4% vs 1.4% ( Collaboration EH, 2000 )。
TEP やTAPPでの腹腔鏡アプローチによるヘルニア根治術においては、神経叢の損傷による合併症は0.4%から3.4%となる( Rosenberger et al. , 2000 )。

2.4.2. 予防
これらの損傷は以下により防ぐことができる
・直視下による剥離
・安全な領域でのみステープルを使用する
・ステープルに代わりアクリルグルーを使用する (TEPテクニック参照) ( Jourdan and Bailey, 1998 )。

2.4.3. 処置
切断された知覚神経枝を縫合することは有用ではない。自然な再生置換により感覚は数週間後には回復する。縫合により神経を巻き込んだ場合、持続性の強い痛みの原因となる。NSAID治療や鎮痛剤によりこの痛みを緩和することができるが、特徴的な神経原性の鋭い痛み(運動時の電流が走るような痛み)の場合には、患者に痛みをもたらしている縫合やステープルを除去する再手術を行うことにより、すぐに症状が改善する。
運動神経障害が起こった場合には術者は再手術にて神経を開放し、必要に応じて再縫合を行う。

2.5. 精索損傷


2.5.1. メカニズム
精索の損傷では精管と網状血管構造の損傷が含まれる。これらは通常再発ヘルニアの剥離操作中に起こる。大きなヘルニア嚢の剥離や縫合などの手技による外鼠径輪の狭窄により起こる静脈叢の血栓症は睾丸炎を引き起こし、炎症症状に加え、そのあと続く萎縮が起こる。

2.5.2. 結果
網状血管の損傷(特に恥骨下部域)は壊死や睾丸萎縮を引き起こす ( Marsden, 1988 )。恥骨上部域での損傷では網状構造による還流により、約60%に起こるとされている睾丸壊死を防ぐことができる。

2.5.3. 処置
処置は予防的なものである。再発ヘルニアの前方アプローチによる剥離操作を避けることが重要なことである。再発ヘルニア症例では後方アプローチ、それも腹腔鏡手技によるものが好ましいと考えられる。

2.6. 精管の損傷


2.6.1. メカニズム
精管は精索の剥離操作中と腹腔鏡アプローチ下での腹膜の剥離操作中に損傷する可能性がある。

2.6.2. 結果
精索の損傷は、若年成人の患者においては軽視できない問題であり、慎重に扱う必要がある。一方の精索の損傷であっても機能的な理由と免疫学的な理由(精液に対する抗体数が増加する)のため生殖能力が減退する。精巣の萎縮を伴わない成人で無精症もしくは精液過少症の患者の7%が幼少時にヘルニア手術を受けている( Friberg and Fritjofsson, 1979 )。

2.6.3. 処置
精索損傷を認めた場合はmicro-surgical sutureの適応となる。

2.7. 膀胱損傷


2.7.1. メカニズム
膀胱の角部はしばしばヘルニア嚢内に滑って入りこむ。嚢を開放して剥離を行うことは可能である。膀胱損傷は後筋層剥離 (Stoppa’s procedure) と腹腔鏡操作の際に起こりうる。腹膜外アプローチ(TEP)とTAPPアプローチではこのような膀胱損傷を起こす恐れがある ( Johansson et al. , 1999; Hernandez-Richter et al. , 2000 ) 。

2.7.2. 結果
通常、損傷は術中に確認でき、膀胱はすぐに縫合閉鎖する。もし、損傷が術中に確認されなければ、腹腔内や鼠径部に溜まった尿が合併症を引き起こすことになる。再発ヘルニアに対して腹腔鏡手技を行う際には、しばしば尿道カテーテルを使用する。ヘルニア嚢を腫脹させれば、病変の確認は容易となる。

2.7.3. 処置
膀胱損傷に対する対処は膀胱の閉鎖とカテーテルを5日から8日間留置したドレナージである。もしカテーテルを術前より留置していた際は、術後も引き続き留置しておく。

2.8. 腸管の損傷


2.8.1. メカニズム
腸管の損傷は通常ヘルニア嚢内に迷入した小腸や大腸の剥離操作の際に起こり得る。その最もリスクの高い部分は左側ではS状結腸、右側では小腸である。これらの事故を防ぐためには腸管とヘルニア嚢との癒着剥離を行わず、腸管を腹膜ごと還納させる必要がある。腸管損傷が起これば腹腔鏡下では複雑な要素が関与してくる。それは臨床病態的な面よりむしろ技術的な問題である ( Gillion et al. , 1996 ) 。
これらの損傷は腹腔内の操作であるTAPP 法にて頻繁に起こるであろうと思われるが、TEP法においてもその報告がされている ( Ramshaw et al. , 1996 ) 。その他の腸管損傷の原因となるものはトロッカーや気腹針の直接の穿刺や電気凝固により起こる2次的な組織壊死である。

2.8.2. 結果
もし腸管損傷部が確認できなければ術後腹膜炎を引き起こす。死亡率は約50%にも達する。腸管損傷部が確認できれば、すぐにこれを修復し、必要なら開腹術に移行する。

2.8.3. 処理
小腸の損傷部は1層もしくは2層にてすぐに縫合閉鎖する。前処置を行っていない大腸を損傷した場合は、通常、損傷部を閉鎖した上にコロストミーにて対処する。この際、非吸収性の素材のものは使用しないようにする。

2.9. 開腹移行

腹腔鏡からの開腹移行は殆どの検討で0%または0.2%から1.7%の幅であった。これは本質的には合併症(出血、消化管損傷…)の取り扱い法に左右される。そして時には手術器具の不具合による技術的な問題が関わる ( Liem et al., 1997 ) 。





3. 術後

再発はヘルニアに対する根治手術の評価の上で基準となるものの1つである。

その他、以下のことを考慮に入れる必要がある :
  • 術式の困難性
  • 術中合併症の発生率と重症度
  • 術後の快適度
  • 社会生活への復帰
  • 社会的経済的な因子





4. 術後合併症

術後の合併症は術式に左右されるものではない。
術後早期の合併症は術後1年以上経過した後期の合併症とは区別する。

術操作が原因となった術後合併症(0から8週目) ( Liem et al., 1997; Johansson et al., 1999 )
合併症
従来の術式
メッシュを使用した前方アプローチ
腹腔鏡
血腫
15%
15%
9.5%
漿液腫/水腫
0.5%
4.5%
6%
尿閉
1.5%
0.5%
2%
尿路感染
0.5%
0.5%
0.2 to 0.6%
表層部創感染
3%
0.5%
0%
深部創感染
0.5%
*
*
疼痛
0.5%
5%
浮腫
0.5%
*
2%
血尿
*
*
0.5%
アレルギー
*
*
0.5%
トロッカーによる損傷
*
*
0.5%
術後熱発
*
0.5%
0.5%
慢性的な射精
*
0.5%
*
静脈炎
*
0.5%
*
*合併症発生率 0.5%以下

術後の合併症は術式に左右されるものではない。
術後早期の合併症は術後1年以上経過した後期の合併症とは区別する。
( Cunningham et al. , 1996 : 315 例, 276例の2年follow-up症例を含む)
( Johansson et al. , 1999 : 613 例, 604例の1年follow-up症例を含む)
合併症
従来の術式
メッシュを使用した前方アプローチ
腹腔鏡
疼痛
1%
2.5%
漿液腫/水腫
*
0.5 to 4.9%
トロッカーによる
損傷
*
0.5%
0.5%
創感染
*
0.5%
0.5%
治癒遅延
*
*
0.5%
肺梗塞
0.5%
*
*

4.1. 術後腸閉塞


4.1.1. メカニズム
腸管係蹄が腹膜開放部へはまり込む事により発生する術後の腸閉塞はヘルニアの手術における古典的な合併症である(従来の術式の1/1,000の発生率)。これはアプローチの方法に関わらず起こるものである。

腹腔鏡の手技においては次のような機転でおこる頻度が高い:
トロッカー挿入部における小腸の絞扼によりおこる術後早期の閉塞(完全な絞扼もしくは腸管片側のみの絞縮による)。術後の疼痛や嘔吐がひどい場合にはこれを疑う。

4.1.2. 結果
この閉塞は機能的な障害をおこす。
早期の絞扼ヘルニアによる腸閉塞は小腸の壊死とそれに引き続く腹膜炎を起こしうる。

4.1.3. 治療
術後疼痛や腸閉塞では外科医は絞扼性ヘルニアの存在を確認する必要がある。その場合はすぐに再手術を行って処置をし、創部のデブリードメントと閉鎖を行う。
腸閉塞は5mmを越える径のトロッカー挿入部では、筋膜の縫合閉鎖により対処することができる。機能的な埋没による症状はこれにより改善される。

4.2. 血腫


4.2.1. メカニズム
これは術中に確認されなかった血管損傷が原因となって起こるものである。特定のケースでは患者の使用している抗凝固薬の使用が原因になることもある。
腹腔鏡手術では小さな静脈の損傷部が気腹による圧迫により一時的に止血されるため、気腹の終了後の術後出血が出現する可能性がある。

4.2.2. 結果
巨大な血腫や被覆されていない血腫は早期の再発や機能的な障害をもたらす可能性がある。中程度の血腫やびまん性の斑状出血や挫傷は治癒過程に影響を及ぼさないので、処置は行わない。

4.2.3. 治療
大きな血腫は体外からの処置や手術により、局所的もしくは腹腔鏡のアプローチにより繰り返し穿刺することによって処置を行う ( Hernandez-Richter et al. , 2000 ) 。穿刺は感染のリスクや早期の再発をもたらす可能性はある。それゆえ、あらゆる外科的な処置が用いられる場合には、再手術し血腫除去を行うことが望ましい ( Leibl et al. , 2000 ) 。予防的な抗生剤の投与が必要である。

4.3. 術後感染


4.3.1. メカニズム
従来の術式によるヘルニア修復術の結果についての報告によると、術後感染の頻度は0から6%である。感染は表層部のみに及ぶものから、全体の層に及んでいるものまでがある。術後感染は腹腔鏡手術における報告においても同様に見られ、メッシュの感染やメッシュをステープルで固定することが原因となる骨膜炎や骨炎がある ( Tetik et al. , 1994 ) 。

4.3.2. 診断
メッシュの感染を診断する事は困難である。診断となるサインは炎症性の膨隆や腫脹、切開創からの滲出液、非典型的で遷延する術後の疼痛、C-reactive protein値と白血球値の上昇などである。
超音波検査やシンチグラフィ、MRIやCTなどの補助的な検査は診断に有用であるが、この合併症に関する特異的な検査はない。

4.3.3. 結果
表層部のみの感染では局所的な治療で十分対応できる。
しかし感染は再発の大きなリスクとなる。数年の間は縫合処置が行えなくなったり、慢性的な滲出液が続いたりする。

4.3.4. 治療
表層部の感染では局所的なデブリードメントが必要となる。感染したメッシュは露出させ、全身的な抗生剤投与と局所的な長期の処置により治療する。
感染したメッシュの除去はより簡便な方法である。多孔性のメッシュ (type e-PTFE) は除去する必要がある。

4.4. メッシュについての禁忌

感染を防ぐために、通常の適切な準備をしていない患者や緊急の患者、そして感染の可能性がある手技(膀胱や消化管の開放)が行われる場合にはメッシュは使うべきではない。

4.5. メッシュの逸脱


4.5.1. メカニズム
メッシュの逸脱は稀な合併症であり、全体の0.1から1%の発生率である ( Begin, 1996; Johanet et al. , 1996; Tetik et al. , 1994 ) 。

4.5.2. 結果
逸脱したメッシュはそれがどこに移動したかにより(膀胱、腸管…)、感染や痛みなどの原因となる。

4.5.3. 治療
移動して症状の原因となったメッシュは取り除かなければならない。この手技は難しく、損傷も大きい。

4.6. 睾丸萎縮


4.6.1. メカニズム
精巣動静脈の障害では睾丸の萎縮をもたらす。全体の1から10%の症例で見られる ( Schumpelick et al., 1994 ) 。この兆候となるものは術後3日目や5日目に現れる疼痛や睾丸の腫大、挙上などである。

4.6.2. 結果
この症状は単純なもので、一時的な術後不快感のほか特筆すべき症状はない。睾丸は網状の血管吻合によって血液の再還流がなされる。最も一般的な兆候は睾丸の萎縮である。睾丸は硬直し、2分の1から3分の1の大きさに萎縮する。時に術後10日から15日目に睾丸が壊死に陥ることがある。

4.6.3. 治療
痛みを減弱するために解熱鎮痛剤を投与するが、自然と痛みを伴わない萎縮の状態に変わる。睾丸壊死をおこした症例では、術後15日には睾丸を取り除かなかければならない。

4.7. 水腫/漿液腫


4.7.1. メカニズム
水腫は通常巨大なヘルニア手術後で、特にヘルニア嚢の遠位端がそのまま残された場合に起こる。水腫は腹腔鏡のアプローチで手術を行った場合、より頻度が高いように思われる(4.9% vs 2.8% (開腹手術) [ Liem et al. , 1997 ] )。

4.7.2. 結果
主に機能的なものと美観的な問題からなる。患者は時に“早期ヘルニア再発”を訴えて来院する。水腫は自然に、もしくは1,2回の穿刺により消失する。

4.7.3. 治療
すぐに処置を施す必要はない。殆どの水腫は自然に消失する。機能的な問題や滲出物が多い場合は1から3回の穿刺が必要となることもある。稀にヘルニア嚢の切除が適応となることもある。

4.8. 射精障害


4.8.1. メカニズム
腹腔鏡下の手技においてメッシュを固定するため精管と結合織を広範に剥離すると、精管の狭窄やその走行の不具合を起こすことがある。これは古典的な術式においても起こる。

4.8.2. 結果
精管内の精液が正常に流れなくなり、その鬱滞や逆流が精索に沿った焼け付くような感覚といわれる射精中の強い痛みの原因となる。


4.8.3. 治療
特別な治療は報告されていないが、精管の交通性を維持する事により、痛みをとることができる。

4.9. トロッカー挿入部の感染


4.9.1. メカニズム
この合併症はきちんと管理された手術の条件下では非常に稀なものである:
0.1%以下 ( Hernandez-Richter et al., 2000 )

4.9.2. 結果
感染の主なリスクとなるものはメッシュである。この合併症は別として、管理は局所的な処置を必要とし、患者の病床期間と休職期間が延長されることになる。

4.9.3. 治療
単純な局所的治療が有用である。
この合併症には術前の予防的抗生投与剤定型化が必要であると思われる。

4.10. トロッカー挿入部ヘルニア


4.10.1. メカニズム
この合併症は稀なものであり、術後感染の結果としておこったり、自然に発生したりするものである。その発生率についてはこれまで検討されてはいない。トロッカー創部の鋭的な痛みは早期の閉塞状態に関連している可能性がある。

4.10.2. 結果
閉塞は腸管の絞扼により起こるが、腸管片側面の圧縮においてもより高い頻度で起こる。閉塞を伴わない腸管の壊死が見られることもある。

4.10.3. 治療
この合併症では腹腔鏡もしくは開腹による早期の再手術が必要となる。時に腸管切除が必要となる。5mm以下のトロッカーを使うようにすることによりリスクは減少する。

4.11. 術後腸閉塞


4.11.1. メカニズム
この稀な合併症は通常、経腹的腹腔鏡アプローチに関連して起こると考えられる。これは腹膜で覆われていない部分のメッシュへの癒着によって起こる ( Hernandez-Richter et al., 2000 ) 。

4.11.2. 結果
これらの癒着は閉塞症状を引き起こす。

4.11.3. 治療
これを放置すれば、閉塞に対する癒着を剥離する再手術が必要となる。
時に腸管切除の適応もある ( Hernandez-Richter et al., 2000 ) 。





5. 術後疼痛

5.1. 早期


5.1.1. メカニズム
術後早期の痛みにはいくつかの原因がある。神経の損傷は早期もしくは後期の痛みを引き起こす。その他、痛みの原因として次のものが挙げられる:
腹膜嚢の結紮( Lichte nstein, 1989 )、緊張を伴った筋腱膜層の再縫合(MacVay, Shouldiceなどのopen法における)。無作為化臨床試験ではTension-freeヘルニア根治術による痛みの軽減による利点については証明されていない ( Schrenk et al. , 1996 ) 。

5.1.2. 治療
鎮痛薬の使用により痛みを軽減する。
神経原性の急性の痛みでは神経を圧迫している縫合やステープルを取り除くための再手術が必要となる。しかし、これは一般的ではない。必要であれば鎮痛剤と神経剥離により痛みを開放することができる。術後疼痛は局所麻酔の投与もしくは脊椎麻酔を施す事により抑える事ができる( Rutkow and Robbins, 1993 )。

5.2. 腹腔鏡アプローチによる処置

鼠経ヘルニアの手術における腹腔鏡の手技は術後疼痛を減らす事になる。ただし、この疼痛の緩和が腹腔鏡の手技によるものかtension-freeの手技によるものかを特定する事はできない。

ビジュアルスケールを用いたり、術後の鎮痛剤の使用量に基づいて術後疼痛の程度を評価することによる無作為化臨床試験により、腹腔鏡下手術とopen法による手術の比較が行われてきた。検討の中で用いられる従来の術式の選択は任意のものである。これらの検討から他の手技が外されていると言う事は、検討に対して批判の余地を残している事になる。ある検討(uncontrolled study)は腹腔鏡手術に好意的なものである ( Barkun et al. , 1995; Champault et al. , 1994; Champault et al. , 1997; Lawrence et al. , 1995; Stoker et al. , 1994; Wright et al. , 1996 ) 。 Kozol et al. (1997) のcontrolled studyでは腹腔鏡手術ではopen法に比べて術後疼痛が少なく、腹腔鏡下手技に有利な結果であった。Lichtensteinのtension-free techniqueではShouldiceなどのtensionの残る方法に比べて、より痛みが少ないようであった ( Kux et al., 1994 ) 。腹腔鏡アプローチではopen法に比べて疼痛の軽減という点で有利であるが、術後1日か2日の短い期間のみのことである ( Tschudi et al. , 1996; Schrenk et al. , 1996 ) 。この疼痛に関する利点は術後8日目から10日目には消失する ( Liem et al. , 1997 ) 。

5.3. 後期


5.3.1. メカニズム
鼠経ヘルニア根治術を受けた患者の15%から20%は、神経痛や知覚麻痺、発作性神経痛(neuropraxis)、感覚減退、感覚異常そして焼き付き感などの痛みを伴っている。痛みは神経因性であると言う事以外に原因は分かっていない。腹腔鏡のアプローチは前方アプローチに比べ、慢性的な術後疼痛を有意に軽減すると考えられている(2.1% vs 13.8%; p < 0.001) ( Liem et al. , 1997 ) 。

5.3.2. 結果
これらの痛みは痛みの処置に対する患者からの要求の結果であり、十分に認められたものではない。神経学的な検査と心理面でのケアを行う必要がある。

5.3.3. 治療
症状を取り除くための処置に加え、外科医は痛みの原因となっている神経の感覚枝を除去することもできる。ただし、患者は術後の感覚異常や感覚減退のリスクを容認する必要がある。





6. 一般的な合併症

ヘルニア手術に関連した合併症は同程度の術式における合併症と同じである。ヘルニア手術の合併症は全患者の6.3%である ( Sto ppa, 1997 ) 。肺合併症(無気肺…)や血栓性静脈炎、肺梗塞、致死的な心筋梗塞 ( Fitzgibbons et al. , 1995 ) そして動脈塞栓 ( Tschudi et al. , 1996 ) なども挙げられる。

6.1. 死亡率

ヘルニア手術後の死亡率は非常に低値である。
多施設間4,005例の検討では全くなく( Collabo r ation EH, 2000 )、Shouldice 病院の23年間の検討( Glas sow, 1973 )では合併症を伴わない患者において死亡率は0.19%であった。緊急手術となった患者全て(絞扼性のヘルニア, 高齢者での消化管壊死)を含めた場合には死亡率は高くなる( Stoppa, 1997 )。手術術式(特に腹腔鏡手技)が特異的に死亡率に関与していることを示した報告はなされていない。

6.2. 社会運動への復帰

ヘルニア術後に個人的もしくは職業的な運動の再開のために要する時間の調査には調査を行なう国の術後外科処置の方法と社会的バックグラウンドを考慮に入れなければならない。そういった理由から異なった検討の結果を比較する事はできない。

フランスで行われた検討では10%以上の患者が術後48時間以内に退院する事を拒否している。術後には20%の患者が個人的な理由や医学的でない理由で入院期間を延長している ( Millat et al., 1993 ) 。しかし多くのアングロサクソン国では、外来手術が広まっている。いくつかの検討ではヘルニアに対する腹腔鏡手技において術後の早期の運動への復帰が示されている ( Stoker et al., 1994; Champault et al. , 1994; Payne et al. , 1994 ) 。

6.3. ヘルニア再発

鼠経ヘルニア修復術後のヘルニア再発は多くの要素からなる。我々は再発の結果を納得できる方法を用いている報告からの最低値と最高値を用いて次のように表している。(最低値 / 最高値%) また、我々はその結果を術式やヘルニアのタイプ別に表すこととした。

再発率の評価は術後follow-upの精度 により異なり(50%の患者は再発に気付いていない)、電話調査 ( Kux et al., 1994 ) や期間毎の報告(5年や10年毎の調査 Lichtenstein et al. , 1989 )での不正確さが影響する。我々はFollow-upに訪れない患者は再発を伴っているものと判断するという“maximal bias” ( Hay et al., 1995 ) の原理に基づいて測定した値は取り上げていない。

最も良好な結果は、専門化した施設の専門の術者による報告である( Amid et al. , 1993 : 1%の再発)。これらの結果はこれらの施設のみからの検討でありその排他的な面より、特別なものと考えられる。ある検討における再発率は0%である ( Payne et al., 1994; Stoker et al., 1994; Zieren et al., 1998 ) 。

6.4. 再発の因子

これらは正確な方法で評価されることは稀である。
いくつかの因子が取り上げられる:


6.4.1. メッシュを用いない従来の術式におけるヘルニア再発率
多くの検討では1つの術式(腹腔鏡手技)とopen法の全ての術式をひっくるめて比較しているため、これを説明することは不可能である。これらのケースではopen法は腹腔鏡の術式に比べて再発率が高いとされている ( Liem et al., 1997 ) 。しかし殆どのcontrolled studiesではShouldice 法では再発率はより低かったとの報告がなされている ( Tran et al., 1992; Hay et al., 1995; Kingsnorth et al., 1992; Panos et al., 1992; Paul et al., 1994; Kux et al., 1994; Beets et al., 1997 ) 。

検討 : Paul et al. , 1994 : n = 265; Hay et al. , 1995 : n = 1247; Collaboration EH, 2000 : n = 1634; Panos et al. , 1992 : n = 308
Bassini
8.6 から 9.6%
MacVay
8.8 から 11.5%
Shouldice
2.7 から 6.6%
メッシュを用いない不特定の術式全体 (n = 1,634)
2.9 から 4.4% ( Collab oration EH, 2000 )

6.4.2. メッシュを用いたtension-free法における再発率
わずかではあるが多数の症例を扱った、もしくは無作為化臨床試験による検討が行われている。一例では“メッシュプラグ”法の検討では初回手術例では2%の再発率、再発に対する再手術例では9%の再発率を示している( Ru tkow and Robbins, 1998 )。この術式をShouldice 法と比較した無作為化臨床試験は行われていない。Lichtenstein 法に関しては検討されておらず ( Amid et al., 1996 ) 、これはMacVay法との比較検討のみが行われている ( Friis a nd Lindahl, 1996 )。それらはtensionを伴う術式に比較して再発率は低いようである(5 vs 15%) ( Friis and Li ndahl, 1996 )。Shouldice法と比較した場合、再発率に有意差は認められていない(0 vs 1%) ( Kux et al. , 1994 ) 。

文献上、これらの術式とゴールドスタンダードとされている術式を比較したcontrolled studiesはない。これら術式の利点について報告した検討がわずかにあるのみである ( Beets et al. , 1996 ) 。Stoppaのアプローチと腹腔鏡手技を比較した2つの検討がある。腹腔鏡下手術では痛みや在院日数、就労休業期間を減らすことになるが、術後合併症が有意に増加するとしている ( Champault et al. , 1997; Velasco et al. , 1996 ) 。

検討 : Collaborati o n EH, 2000 : n = 1,513; Rutkow et Robbins, 1998 ; Amid et al., 1996
Stoppa
1%
Rives
10%
Lichtenstein
0.1 から 0.6%
Plug
2%
tension-freeテクニックを用いた不特定の術式全体 (n = 1,513)
1.38% ( Collabor ation EH, 2000 )

6.4.3. 鏡視下手術で行われたヘルニア手術の再発率
シングルランダマイズプロスペクティブスタディ ( Sarli et al. , 1997 ) によりIPOM (腹腔内Onlayメッシュ法) とTAPP法(経腹的腹膜前アプローチ)の比較検討が行われた。IPOM法は手技がより迅速に行えたが、より多くの合併症(特に神経痛)を伴った。また、より多くの再発とも関連しており、臨床的に断念された。
TEP法(腹膜外アプローチ)はTAPP法に比べ、多くの在院期間を必要とし、痛みも増すものと思われたが、再発率と合併症率はほぼ同じであった ( Khoury, 1995; Felix et al., 1995; Ramshaw et al. , 1996 ) 。この検討は腹腔鏡手技との比較のために持ち出す術式の選択において特に偏りがあり、判断基準の評価が不正確である。これらの検討の殆どはopen法と比較した術後合併症率と再発率を示している ( Brooks, 1994; Wilson et al., 1995; Massaad et al. , 1996; Filipi et al. , 1996; Liem et al. , 1996; Heikkinen et al. , 1997 ) 。
この2つの鏡視下手術のいずれかが一方に比べて優れていることを示したcontrolled studiesはない。

検討 : Wright et al. , 1996 ; Collaboration EH, 2000 ; Sarli et al. , 1997 ; Schrenk et al. , 1996 ; Vogt et al. , 1995
IPOM
6%
TAPP (n = 1,896)
2%
TEP (n = 911)
2.6%

6.5. ヘルニアタイプ別の結果

再発率の多様性から患者や術式に基づいて結果を揃えることが非常に困難であることがわかる。再発ヘルニアは手術を受けた症例の7% ( Hay et al. , 1995 ) から 25% ( Amid et al. , 1993 )である。どのタイプのヘルニア修復において再発がより多いかを評価する事は不可能である。患者はしばしば初回と2回目の手術では外科チームを変えることがある。その上、再発を伴った患者の全てが再度の手術を希望するわけではないからである。ヘルニア再発に対する外科的処置はそれ自体が再発の要因となり得る!( Kald et al. , 1995 )。しかし、これらの要因は全ての検討で述べられる事は稀である( Fitzgibbons et al. , 1995 )。
ヘルニアタイプ別の再発率 ( Nyhus, 1989; Nyhus et al. , 1991; Leroy, 1994 ):
外鼠経ヘルニア
1.1から20.7%
内鼠経ヘルニア
3.5から20.9%
大腿ヘルニア
0から31.3%
再発ヘルニア
0から33.1%

6.6. European Institute of Tele-Surgery (EITS)の推奨

“ゴールドスタンダード”の術式は次のものである :
  • 古典的Open法 : Shouldice法
  • テンションフリーOpen法 : Lichtenstein法
  • 腹腔鏡下手技 : TAPP法 または TEP法

術者は患者それぞれにおける最適な術式を選択できるよう、これらすべての術式に精通していなければならない。

6.7. 適応

患者群
Open 法
鏡視下手術
女性
痩身患者
若年者
片側ヘルニア
Shouldice technique
TAPP or TEP
肥満患者
両側ヘルニア
TEP or TAPP
巨大なヘルニア
再発ヘルニア
TAPP法
高齢者
以下の患者:
- 免疫抑制
- 糖尿病
- 多発性のヘルニア
- 麻酔の禁忌症例
Plug法
Shouldice法
Lichtenstein法





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